2人目 豹変した元クラスメイト ★★★★☆

 私、常陸乃は若輩ながら三十うん歳になります。

 で、その三十うん年の間に、ふたりの統合失調症とうごうしっちょうしょう患者に出会いました。


 ひとりは母方の叔母で、自らこの世を去っています。

 死因は過量服薬オーバードース(この話は後々します)。

 もうひとりは専門学校時代のクラスメイトだった男性です。仮に委員長と呼称しましょう。今回はこの委員長についてお話します。


 私が委員長に出会ったのは十八歳の時。彼は皆よりひとつ年上でしたが、穏やかな性格と突拍子もない発言が相俟あいまって、クラスではよくイジられていました。

 専門学校を卒業し、就職し、別の地域に住むようになっても、委員長からは度々連絡が来ていました。取り留めもない雑談です。

 ただ、国語があまり得意ではないようで誤字、脱字、言葉の誤用が目立ち、読解能力がなかなか鍛えられました。ですから私は、たまに返信する程度でお互いの距離を保っていたんです。

 時代の流れとともに、端末は折りたたみ式携帯電話からスマートフォンへと姿を変え、連絡手段はメールからLINEに切り替わりました。

 ところで、の厄介なところは、インストールすると、電話番号を登録している人物が自動追加されるところです。当時付き合っていた彼女よりも先に、委員長からメッセージが届いたことには、苦笑を禁じ得ませんでしたね……。


 卒業してからは、端末のみで行ってきた委員長との付き合い。

 それが十年を過ぎた昨今、突然彼は『病気にかかった』と打ち明けてきました。それこそが統合失調症だったのです。

 症状がどの段階なのかは聞かなかったものの、過去の言動――例えば文章に一切の統一性がなかったり、同じ質問を何度も繰り返したり、会話の流れをぶった切って意味不明な発言を連発してきたり――といった点が、針金のような歪曲した線でつながりました。

 私も人間ですから、余計な情報が入ってくると相手を意識してしまうもので。上辺では今までどおり接していましたが、

『この人との関係は、人生においてそこまで大事ではない』

 という負の感情は、確実に膨れ上がっていました。


 某日。

 メッセージをやり取りしている最中、あまりにも言葉の間違いが多すぎることへ嫌気がさした私は、それについて訂正したことがあります。確か、アイスの商品名の間違いでした。本当に些細な会話で、友人同士なら笑って済ませる程度の内容です。

 が、彼にとっては、腹の虫が承知しなかったようで……。

 間違いを訂正した翌日。から、懐かしのブラクラと見紛みまごう文章が送られてきたのです。


『誰に言っとんや。しばくぞ』8:32

【不在着信】8:38

【不在着信】8:39

【不在着信】8:40

【不在着信】8:40

『おいお前電話でんか!なめとったらしばくぞ』8:41

【不在着信】8:42

『お前じゃお前お前に言っとんやダボカス死ね』8:43

『マナーないんか!』9:12

『無視か』9:12

『電話して。』9:13

『頭いてもたろか。』9:15

『ネットで中傷して見つけたら。どうなっちゃうかなぁ?』9:17

『わからないよ』9:17

『2チャンネルとか馬鹿ばっかじゃん』9:17

『おまえもじゃ!』9:18

『こわ帰れ』9:18

『きゃーでた』9:18

【不在着信】9:19

【不在着信】9:20

『電話にでんか。チマチョゴアホアハアハア』9:30

『ハアハア阿保』9:30

『会社員舐めんなよ』9:31

『ちんちくりん』9:31

『〇〇様ごめんなさいやろ。』9:34(本名のため伏せておきます)

『年上に何言っとんじゃボケ』9:35

『まぁ謝っても許さんけど!』9:38

『会社作って社長になったら潰しにお伺いさせていただきます。』9:39

『のうのうと生きていけるとおもうなよ』9:39

『電話切ったらいやーん』9:53

『わかったのう』9:53

『出るんやで』10:06

『社会人のマナーまなんだやろ。』10:06

『わかったかむっつり』10:07


 うーん、この……豹変。というか、ただの脅迫なんですが。

 委員長を落ち着かせたところで理由を聞いてみると。


・専門学校時代のクラスメイトに同窓会の連絡をした

  ⇒ 四日経っても誰からも返事なし

   ⇒ すごいイライラした

    ⇒ みんなの連絡先を消した

     ⇒ 常陸乃に当たり散らした new!!


 うーん、この……人間性。

 そりゃあんた、総ブロックされてるのに気づいていないだけだよ。


 ――とは言えず、私はそっと委員長をブロックリストに追加し、連絡先を消去しました。愛撫するような、やさしーい手つきで。

 それが、私が彼にしてあげられる最後のだったのですから。


                                   了  

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