本編

1人目 触れてはいけないビデオ ★★★★☆

 十五年以上前の話です。中学校時代、私には三名の男友達が居ました。

 仮にK、Mくん、Aさんと仮称いたしましょう。

 一発目の物語は、Kにまつわる話です。


 中学を卒業すると、バラバラの高校に進学し、四人で集まる機会が減っていました。そんな夏休みに入った折、Kが「うちに泊まりにこいよ」と言うので、Mくん、Aさん、私の三人で慣れない常磐線じょうばんせんを使い、隣町まで遊びに行ったんです。


 このK。進学した高校は、県でも有数の進学校でした。

 中学の頃から『独特の雰囲気』というものを醸しており、ほかの生徒といざこざを起こしたり、悪い噂を立てられたりと、中学時代はあまり良いイメージを持たれていませんでした。

 けれど私に対しては、『お前はオレの親友だよ』なんて口説き文句で、誰よりも慕ってくれたのを覚えています。


 お泊り当日。

 Kの家は、家族が出払っていて好き放題使って良いとのことだったので、テレビゲームをしたり、麻雀を打ったり、飽きたら各々が漫画を読み出したりと、宅配ピザを片手に男子高校生らしい時間を過ごしていました。

 そのうち、二十二時、二十三時、深夜――と、日付が変わり、夜更かしが得意ではないKとMくんが先に寝落ちしてしまったのです。


「KもMも寝ちまったな」

「ふたりでなにするべ?」

 Aさんと私は男子トークにも飽き、手持無沙汰になると、開放されていたKの部屋に目をやるなり、ある同じ意見を抱きました。

「なあ、Kの部屋にエロビデオあんじゃね?」

 という、いかにも高校生の時分らしい発想です。


 今の子はピンと来ないかもしれませんが、一昔前はブラウン管テレビがビデオラックの上に乗っており、ビデオデッキが幅を取っていたものです。

 Kの部屋のビデオラックには、当時流行っていたドラマやバラエティ番組を録画したVHS(三倍録画がデフォ)がたくさん並んでいました。

 確か、『TRI〇K2』とか『ケイ〇ク』とか『池〇ウエスト〇ートパーク』とか、そんなラベルが貼られていた記憶があります。


 一見する限り、Kの部屋に目当てのモノエロビデオはありませんでした。が、男子は知っているものです。ラックには、まだまだ宝が眠っていることを。

 Aさんが前面のVHSをどかし、ラックの奥を探ると、案の定ありましたね。黒くてツヤツヤした、ラベルを貼っていないVHSが。

「これ絶対エロビだって! 観っぺ観っぺ!」

 当時、『ラベルがないビデオ=エロビデオ(しかも裏ビデオ)』という偏見が、若者の間に蔓延していたので、Aさんと私は表情をほころばせての大興奮です。

 ――今思えば、そこでやめておくべきでした。VHSをデッキにセットし、再生ボタンを押したあとの間が忘れられません。


 しばらくして流れてきた映像を観たAさんと私は、同時に絶句し、顔を見合わせ、『え、なにこれ……?』というアイコンタクトを取っていました。もはや、内臓の入口がどアップで映っていた方がマシだったレベルです。


 なにせ、ブラウン管テレビに映し出された映像は、

 だったのですから。


 ノイズ混じりの粗い映像だったのに、私の脳には鮮明に焼きついています。

 プールサイドに座る女児、食いこんだ水着を直す女児、見学する体操服の女児――

 女子生徒ばかりを執拗しつようにカメラが追い回す、異様な日常風景が。


 人間とは現実を受け入れられない時、幾秒か行動を制されるのだと、私は身をもって体験しました。時計の秒針は、果たしてどれだけ動いていたのでしょうね。

「これはヤバイ」

「Aさん、止めて止めて。え、てかKは?」

「大丈夫、寝てる。で、何秒観た? その分だけ巻き戻そう」

「おk把握」

 現実に帰還したAさんと私の低いトーンは、危機管理能力の表れだったのだと思います。証拠を残さないように、現場を元の状態に戻し、そっとダイニングのイスに落ち着きました。

 ――最終的にその件は、ふたりとも胸奥のきょうおう化粧箱にしまい、南京錠をしてテイクアウトしたのです。


 くしくも、高校を卒業するとKとの交友関係は、自然と消滅してしまいましたが、MくんとAさんは今でも付き合いがあります。

『お前はオレの親友だよ』なんて恥ずかしいラブコールを送ってきた人物が、真っ先に離れてゆくとは。まことに人間とはわからないものです。


 しかし、あれは一体なんだったのでしょう?

 Kが撮ったとは思えないので(思いたくないので)、おそらくカタギではないウェブサイトかビデオショップで購入したのだと――信じたいですね。


                                   了  

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