第24話 ジークの誕生日パーティー パート1

 最近、三日に一度は変態残念エロロリコン王子が娼館に現れるようになり、巷では王子が足しげく娼館に通うのは、愛妾にしたい女がミモザの館にいるからだと噂がたつようになった。

 何せ、王子の癖にお供も連れず、単身隠すこともなく馬に乗ってやってくるのだから、目立つことこの上ない。しかも、これでもかというくらいの花束を抱えているのだから、それでなくても人目を引く。


「ねぇ、知ってる? 」

「何をです? 」

「今度、ジーク王子の誕生日の宴にうちの館に招待状がでるって噂よ」


 イライザの髪の毛を結っている時、イライザがチラリと私を見て含み笑いをした。


「そう……ですか」


 王子の誕生日パーティーに招待されるなど、館の格もかなり上がるし、かなり名誉なことだろう。上流の貴族達も集まるだろうから、顔を売るにもいい機会だ。

 そう、娼婦の姉様達にしたらである。

 私はできるだけ目立たず、裏方に徹したいから、お呼ばれなんてごめんこうむりたい。まあ、いくら本人の誕生日パーティーだからといって、そんな公の場に娼婦見習いの小娘を呼ぶ程、ジークも残念王子ぶりを対外に示す間抜けを晒すこともないだろう。ないと信じたかった……のだが。


「ディタ! 何か凄いのが届いた!」


 イライザの部屋に飛び込んできたカシスが、興奮気味に叫びながら私の腕を引っ張った。


「ちょっと、髪型が歪む。何よカシス、騒がしいなぁ」

「いいから、ちょっと来てよ」

「もうちょいで終わるから、ちょっと待って」


 カシスはイライラと爪を噛みながら私の後ろで待っていたが、イライザの髪型が整うにつれ、私の手先の動きに集中しだした。


「カシスは本当に熱心よね。エリスの専属になったんでしょ? エリスの評判が上がったらしいじゃない。サリアの顔色が悪いったらありゃしない」


 不動の一位のイライザは、楽しくてしょうがないらしく、クックッと笑いながら言う。

 サリアとエリスは、二位と三位の座を取ったり取られたりとかなり僅差な為、お互いにライバル視バチバチだった。


「サリアには嫌われてるから、触らせてくれないんだよね」


 サリアは黒髪の私を毛嫌いしており、ついでに私の姉であるカシスのことも口汚い小娘とバカにしている為、この館で唯一髪を結わずに仕事に出ていた。

 まあ、素材で勝負する……といったところだろうか。

 そのせいか客足が……な感じであるのだが、本人は自分が落ち目であるとは決して認めていない。


「いいんじゃない。本人が頑ななんだから。バカな娘よね」


 出来上がった髪型を鏡でチェックし、満足気にうなづいたイライザは、それで……と切り出す。


「いったい、何が届いたの? 」

「そうだ! 来てよ! 」


 カシスに引っ張られ、私は自分の部屋へ向かう。部屋の前には人だかりができており、部屋の中を覗いていた。


「ほらほら退きなさい」


 イライザが手を叩くと、まるでモーゼが割った海のように、人だかりが左右に分かれる。


 何故かイライザを先頭に部屋に入ると、困り顔のミモザが積み上げられた箱の前に立っていた。


「何、これ? 」

「あんたに……みたいだね。しかもお二方から」

「二人? 」


 こんなに私にプレゼントを寄越せる人物など……ジークとワグナーしか知らない。


「何だってこんなに……」

「とりあえず開けてごらん」


 私は手近にあった箱を乱暴に開けてみた。


「何ですか、これ? 」

「帽子だね」


 メーテルが被っているようなロシアン帽のような形で、もっとド派手な柄で、倍以上高さのある帽子が入っていたのだ。

 なんていうか……、どこぞの民族衣装のような。

 はっきり言って趣味じゃない。


「また、こりゃ立派な帽子だね。帽子の高さが、高い程淑女の証ってね。まあ、それだけ値も張るけど」

「いや、これはいらないでしょう」

「あら、ならあたしにちょうだい」

「……半額で売ります」


 貰い物だろうが、お金になるならただでなんかあげられない。


「セコ……。まあいいわ、それで買い取ってあげる」


 イライザは嬉しそうに帽子に手を伸ばす。帽子の価値よりも、これを誰から貰ったかに値打ちがあり、王家からの下賜された物であるという印にこそ価値があった。


「こんなの被るんですか? 」

「まあ……この髪型には似合わないかしら? 」

「正装ってどんなのかわからないんですけど……」

「多分、この中に入ってるんじゃない? 」


 私は手当たり次第箱を開けてみた。

 まあ、出るは出るは、目が痛くなる程の柄物の衣服が。この世界では十二単ではないが、羽織れば羽織るだけ裕福な証拠というか、位の高い人程ゴテゴテと着飾る習慣があるようだ。


「これ、何枚着るんです? 」

「正式には素肌に着る肌衣はだぎぬの上下を着て、その上に上衣下衣うわぎぬしたぎぬを着て帯で止めて、後は唐衣を羽織るんだけど、貴族様なんかは唐衣を重ねて着るね。唐衣は引きずるくらい長くて値段も張るから、立派な唐衣を数多く羽織れるだけ、裕福な証拠さ」


 裕福とは程遠い自分に、これだけの唐衣の量。しかも、素材まで最上級品ときている。それが二人から贈られてきているのだから、そりゃ女なら見物にもくるだろう。


「招待状つきだよ」


 ミモザが手にしていたのは、立派な封蝋を施された白い封筒。開けるまでもなく、ジークの誕生日パーティーの招待状だろう。


「開けて」


 開けたくない思いで封筒を受け取り、ミモザに急かされて渋々封を切る。


「招待状……みたい」

「何て書いてあるんだい?! 」

「私と……三人の娼館の娘をジーク王子の誕生日の宴に招待するって」

「三人?! 」

「選別は私に任せるって……」


 超めんどくさい!

 誰を選ぶか、それによって選ばれた選ばれなかったで、反感買うじゃないのよ?!


 ジークにしたら、慣れない場所だろうから私の気心の知れた娘を連れてきていいよ……という親切心なんだろうが、この場合ははっきり言って真逆!

 私が選ぶと言った途端、皆の視線がすこぶる痛いんですけど。


「どうするんだい? 」

「ミモザは……」

「あたしには別口から招待状がきてるよ」

「では……」


 皆が一斉に唾を飲み込む。


「売上上位三人を」


 一番無難な名前を上げる。


「まあ、そうだね。それがいいだろうよ」


 ミモザもホッとしたようにうなづく。


「あの、この衣装、リメイクしてもいいと思います? 」

「リメイクってなんだい? 」

「少し作り替えるんです。第一、娼婦見習いがバカみたいに貴族の真似をしても笑われるだけですよ。それなら、娼婦は娼婦らしく、精一杯アピールしないとじゃないですか。せっかく上客になりそうな貴族が沢山くるんなら」

「まあ……そうだね。好きにするといいさ、あんたが貰った物なんだから」


 布地は沢山ある。後はパーティーまでに間に合うようにドレスを作ってもらうだけだ。


 私の頭の中には、いわゆるイブニングドレスやカクテルドレスなどの洋風なイメージが浮かんでいた。

 はたして、どちらかというと和ティストなこの世界に馴染まれるかどうか……。

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