第69話 俺と天ヶ瀬さんと釣り。

「大好きですよ!先輩!!」

天ヶ瀬さんからの、突然の言葉だった。

俺は記憶喪失になってからは初めて告白された事になる。

「あ、ああありがとうございます!!」

突然の告白にテンパる俺は緊張してカミカミ状態だった。


「早く記憶が戻るといいんだけど、難しそうだな……。」

「そうですね。でも、諦めたらいけませんよ!きっと治りますから!」

天ヶ瀬さんは俺の手を握り、必死で励ましてくれる。 記憶がある時もこんな感じだったんだろうか……。 なのに、俺は……。



手を繋いだまま俺達は砂浜を歩く。賑やかな海水浴客達を避けながら。

どこまでも続く白い砂浜と、青い海。

俺は雑踏を掻き分け、歩きながら天ヶ瀬さんに声を掛けた。

「天ヶ瀬さん、今からもう一度釣りやりませんか?」

「………はい!」


湯川姉の車まで戻ると、俺は釣り竿とタックルボックスを取り出す。

「良かった、餌は無事だ。」

クーラーボックスの中に入れていた為、餌はまだ元気だった。


「あの堤防に行こうか!」

俺が指差したのは広く足場の良いファミリー向きの堤防だ。 先端には柵が設置されている為安全性はバッチリだ!

念の為、二人共、腰に巻くタイプの救命胴衣を装着する。


「よし、行こうか!」

俺達は手を繋いで堤防まで向かう。

雑踏を再度掻き分けた先には……堤防の前に湯川姉妹が待っていた。


申し訳なさそうにする湯川姉と、仁王立ちでまさに鬼の形相の奈緒ちゃん。

「彊兵先輩、何でマリアちゃんと手を繋いでいるんですか?」

「それは………。」

俺が言うよりも早く天ヶ瀬さんが代わりに答えていた。

「彼女が私だからですよ、奈緒さん。」

天ヶ瀬さんは不敵な笑みを浮かべながら、奈緒ちゃんに近づいていく。

奈緒ちゃんの胸を人差し指で突くと、天ヶ瀬さんが釘をさす。

「私の彼氏に手を出したら、いくら奈緒さんでも、容赦しませんから。」

「天ヶ瀬さんこそ、私の今の彼氏は彊兵先輩です。勝手に連れ回さないで下さい。」

お互いに火花を散らす。まさに一触即発。

「まあまあ、奈緒ちゃんも天ヶ瀬さんも喧嘩しないで、楽しくしましょうよ!」

湯川姉が二人の間に入り込む。

「お姉ちゃん(湯川さん)には関係ありません!!」

「…………はい。」

二人の息の合った(?)鬼気迫る言葉に黙る姉。なんの役にも立たない………。


取り敢えず俺は無視し、釣りをしに天ヶ瀬さんの手を引き、堤防に向かって歩いていく。


「くっ…………!天ヶ瀬さん……!!」

奈緒は怒りに打ち震えていた。

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