第67話 俺の過ち。
「うーん、私には全然アタリが無いですねー。」
天ヶ瀬さんの竿には確かにアタリらしきものが無い。
こういう場合は、餌がない、餌が古い(食べかけ若しくは時間が経っている。)、魚の欲しい餌が違う、釣り方が違う等々……。
「色々な理由があるけど、取り敢えずは餌を回収してみようか。」
俺は天ヶ瀬さんにそう言うと、天ヶ瀬さんはリールを巻き始める。
ーーーその瞬間!
ブルルルッ!!
小気味よい振動が天ヶ瀬さんの手に伝わってくる。
「まだだ、もう少しだけ巻いてみよう。」
俺は天ヶ瀬さんの手を上から握り、リールを少しだけ巻きながら竿を倒して、重りをズルズル引いた。
更にアタる振動!
「良し、リールを巻くんだ!天ヶ瀬さん!」
天ヶ瀬さんはリールを巻いていく。すると五本仕掛けの針の内、4つにシロギスが掛かっていた。
「大当たりだよ、天ヶ瀬さん!」
二人でハイタッチをして喜びあっていると、そこに奈緒ちゃんがやって来る。
「彊兵先輩、海を提案したのは私ですよ! 私も構ってくださいよ!」
と湯川姉妹がやってくる。湯川姉は奈緒ちゃんの後ろで手を合わせ、『すみません!』と言わんばかりの表情でこちらを見てくる。
「では、海を提案したのは奈緒さんですので、後は奈緒さんがどうぞ。 明日は私の予定にして頂きますので。」
と言い、釣ったシロギスを持って帰っていった。
正直、俺の性格上の話だが、誰かと目標に向かって必死に共同で何かに取り組んでいる時や、それを達成し、お互いに喜びを分かち合っている時に横から入って来られるのは好きじゃないタイプなのだ。
「奈緒ちゃんには悪いけど、今は、天ヶ瀬さんと釣りをしていたんだ。 後でも時間はあった筈だ。すまないが、一緒には遊ぶ気分じゃ無くなった……。」
俺は竿とタックルボックスをまとめて、天ヶ瀬さんの後を追った。
「ちょっ、彊兵先輩?ごめんなさい、彊兵先輩、彊兵先輩!?」
俺は呼び止める奈緒ちゃんを無視する形で堤防を後にする。
天ヶ瀬さんはどこに行ったんだろうか……。
今日は伊古部近くのロッジで泊まる予定だったから、そっちにいるのかも……。
若しくは釣り竿を戻しに車へ?
俺は
「…………いた!」
「先輩!…………どうして?」
俺は車のトランクに背を預けて、ボーッとしていた天ヶ瀬さんを見つけた。
「逃げてきちゃった(笑)」
俺は車のトランクを開けると、釣具をしまい込む。
「天ヶ瀬さん、上に羽織るパーカーみたいなのは無いの?」
「ありますけど、どうしてですか?」
バタンとトランクを閉めて、俺はその時、思った事を言った。
「他の男の人に、天ヶ瀬さんの水着姿を見られるのは嫌なんで。」
言ってから、その状況に改めて気付く。
「あ、ありがとうございます………。ちょっと待ってて下さい!……えと……。」
後部座席のドアを開けて、バッグの中を探す。
ちょっと待って! その態勢もヤバイから!
上半身は車の中、水着を着けているが下半身つまりはお尻が、丸出し状態なんだ!
しかも結構人いるし、チラチラ見てくる男いるし!
「あ、ありました!……………先輩、何でしゃがんでるんですか?」
男の俺にはクールダウンが必要だった。
パーカーを着て水着姿を極力抑えた天ヶ瀬さん、クールダウンを終えた俺は、二人で海の家に行く事にした。
流行りを少し落ち着かせたタピオカミルクティーを注文し、受け取ると席に付く。
「良かったんですか?奈緒さんの事、放ったらかしにして来て。」
タピオカミルクティーをチューチューしながら俺をジトーッと見てくる天ヶ瀬さん。
まぁ、確かに彼女に天ヶ瀬さんがいながら、奈緒ちゃんと二股かけた最低男なんだもんな。 そりゃ、イラッとするよな。
「実は、俺は……。」
「わかりますよ。何かを二人でやり遂げよう、若しくはやり遂げた時に横から誰かが入ってくるのが嫌いなんですよね?」
俺が言うよりも早く、天ヶ瀬さんは俺の思いを答えてきた。
今更ながら、俺はとんでもない事をしていたんだなと痛感させられたのだった。
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