第65話 伊古部海岸へ。

渥美半島南部に広がる海岸地帯に存在する伊古部海岸へ、俺と天ヶ瀬さん、奈緒ちゃん、運転手の湯川さんは向かっていた。

伊古部海岸は多くのサーファーや、釣り人に愛されている海岸である。


海とは、その静かで大人しい水面とは裏腹に、水中では恐ろしい程に逆巻き、荒ぶっている。 

近年では、離岸流による死亡事故も起きており、小さな子供がいる親は絶対に目を離してはいけない。 また、離岸流に飲み込まれたら、岸に向かって、つまり波に逆らって泳いでも無効化されます。

波に逆らって泳いだ場合、オリンピック選手でも岸に辿り着くのは不可能らしい。

離岸流に飲み込まれたら、横に向かって泳げば脱出できる。

ただ、離岸流は見た目でわかりやすいので、くれぐれも気を付けてください!


「先輩、違う小説が始まってしまったのかと思いましたよ。」

声をかけてきたのは、水着に着替えてきた天ヶ瀬さんだった。

髪の毛は後ろで一つにまとめてお団子頭にしていた。

青と水色のチェック柄の水着で、上下に別れているため、露出度が高い。

けしからん。

「天ヶ瀬さん。水着姿似合ってますね!」 

「本当ですか!?よかったです!」

ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ天ヶ瀬さんに続いて、もう一人、姿を現す。


「彊兵先輩!私の水着はどうですか?」

奈緒ちゃんの水着は………何ていうか……水着はどこ?ってくらいに布面積が少なかった。赤い三角の小さな布地が2つあるだけ。 それでもって、胸があるので、更に強調されている。 下は……紐かな?

うん、けしからん。

「アウトに近いセーフかな…………。」

俺は直視できずに、目を逸らす。


「奈緒ちゃん、その水着は流石にやり過ぎなのでは…………?」

「マリアちゃんは攻めなさ過ぎです。」

早速火花を散らす二人。


「さっ、先輩!海に入りますよ!」

手を引く天ヶ瀬さんに俺は必死でこれを制す。

「待ってくれ、天ヶ瀬さん!準備体操を怠ると大変なことになるんだ!」

準備体操第一、第二。完了。


「さ、彊兵先輩!今度こそ海ですよ!」 

「待つんだ!君達は離岸流の恐ろしさを知らない!」

離岸流の講義、完了。


「さぁ、今度こそ!」

「待つんだ!海にはカツオノエボシという毒クラゲが!」

「彊兵先輩、もしかして…………。」

「泳げないんですか…………?」

後輩二人からの冷たい目線。


「あぁ、はいはい!泳げませんよ!それが何か? そもそも人体が水に浮くのがおかしいんですー!」

「あー!開き直った!」

「先輩、行きますよ!泳ぎ方は教えますから!」

こうして美少女二人を連れた海水浴が始まった。



俺は天ヶ瀬さんに泳ぎ方を教えてもらう。 その間、奈緒ちゃんには車で送り迎えしてくれる湯川さんが付き添ってくれていた。

彼女はさすが、大人の女性だけあって、出るとこは出まくって(主に胸)、クビレもしっかりある。

ただ、残念なのが競泳水着にシュノーケルを常に装着している事だ。 これにモリを装備させたら狩りの人になってしまう。


「先輩、そんなに湯川さんの胸が気になりますか? 今は私を見て下さい!」

天ヶ瀬さんが真剣な眼差しでじっと見てくる。

「そうだよね。ごめんね、天ヶ瀬さん。」

「…………はい。」

俺は天ヶ瀬さんの手を握り、バタ足を続ける。


「おい、見ろよアイツ!女の子に補助してもらってるぜ!」

「情けなっ!(笑)」

二人して笑ってくるチャラ男達。

「ねぇ、お姉さん!そんな泳げない奴ほっといて、俺達と遊ぼうよ!」

チャラ男Aが天ヶ瀬さんの手首を掴む。


ーーーーーー。


「先輩以外が私の身体に触れんじゃないよ!」

天ヶ瀬さんは俺を立たせると、直ぐ様その態勢からチャラ男Aの顔面に向かってハイキックを繰り出した。

「ぶほぁっ……………!?」

チャラ男Aはその場に倒れ込む。

「お前、とっ捕まえて散々な目に遭わせてやるぜ!」

チャラ男Bが飛び掛かるが、その瞬間には天ヶ瀬さんの金的蹴りが炸裂していた。

「ひゅっ!?」

その場で気絶するチャラ男B。


二人はライフセーバーの方々に連行されて行った。


「さすが天ヶ瀬さんね、強すぎるわ……。」

その光景を目にし、感心する湯川さん。

「…………………。」

奈緒ちゃんは無言のまま泳いでいた。

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