第52話 人酔いと湯川姉妹とイノンモール。

夏休み、昼ご飯時という事もあってか、モール内は大勢の買い物客で賑わっていた。

「凄い人の数ですね……。」

俺は元々人酔いするタイプだから、これだけの人がいると、直ぐに気持ち悪くなってしまう。


「彊兵先輩、大丈夫ですか?」

顔色が悪い事に気付いたのか、奈緒ちゃんが声を掛けてくる。

「ありがとう。……あまりにも人が多過ぎると、人酔いしちゃって……。」

俺は所々に設置されているベンチに腰掛ける。

「ちょっと待ってて下さい!」

奈緒ちゃんはそう言い残し、どこかに駆けて行ってしまった。


「湯川さん、警察行かなくて大丈夫なんですか?」

俺の問いかけにそっぽを向く湯川さん。

「え、何ですか?怖い。」

「実はですね。警察、辞めたんです!」

えーーーーーーーーーーーーーーーー!?

警察とかって、そんな明日から行きませーん!みたいなそんな辞め方出来たの?

ツッコミたい事は沢山あったけど、取り敢えずは飲み込んでおいた。


「…………そ、そうなんですねーー。でも、取り巻きの事とか、よく知ってましたね。」

「同僚がついでだからって、教えてくれたんですよ、LIMEで!」

軽っ!情報漏洩じょうほうろうえいー!

いいの?そんな、友達引っ越しちゃうから、私の電話番号教えるね!みたいな感覚で教えて!

「便利ですよねー、LIMEって!グループだと情報共有出来るし!」

最早、ツッコミすら入れる気が無くなった……。


「彊兵先輩、お待たせしました!お水です!」

奈緒ちゃんが息を切らしながら手渡してきたのは冷たいミネラルウォーターだった。

「ありがとう、奈緒ちゃん!!」

俺はキャップを開けて一気にグイグイ飲んだ。冷たい水が喉に染み渡り、頭もなんとなくスッキリしたようだ。

「スッキリしたよ、ほら奈緒ちゃんも汗かいてる。飲みなよ!」

俺はさっき奈緒ちゃんに貰ったミネラルウォーターを渡す。 

「ごめんね、半分くらい減っちゃった!」

笑う俺に対し、何故か俯く奈緒ちゃん。

「大丈夫?疲れた?座りな?」

促す俺に湯川さんが耳打ちしてくる。

『いやー、これは照れてるんですよ、彊兵君。』

照れてる、何で?

「これだから、天然たらしは……。間接キスですよ!」

湯川さんの言葉に奈緒ちゃんが飛び跳ねるように慌てる。

「おおお、お姉ちゃん!!」

「飲まないなら、私が貰うよ。間接キス!」

「飲むから!」

そう言って奈緒ちゃんはグイグイとミネラルウォーターを飲み干した。


…………………。



「の、喉渇くよね〜!」

「そ、そうですね〜!」

二人共しどろもどろだった。


「はいはい、牛乳買いに行くよ!他にも頼まれてる物あるんだから!」

スタスタ歩いていく湯川姉。

そういえば、刈谷の話だと湯川姉も俺の事を………だったよな。

この雰囲気からは、全くそんな感じさせないけど。


俺達は屋上に車を止めたから、エスカレーターで一階の食品売り場まで降りる必要があった。

この夏休み、クーラーはガンガンに効いているんだろうけど、人の熱気で全く効果無しだった。

「奈緒ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫れ〜す…………。」

大丈夫じゃないな、こりゃ。

「湯川さん、奈緒ちゃんがダウンしそうなんで、機動性に優れた湯川さんにお買い物お願いします!」

「酷い!私だって女の子なんですよ!?」

「でも、一番鍛えてるから。」

「うぐっ……。行ってきますよ!その代わり、アイス1本ですよ!」

「はいはい、分かりましたよ。」

俺は奈緒ちゃんを連れて、近くのベンチに腰掛ける。

湯川姉はもういなくなっていた。さすがの機動性だな。


「奈緒ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫れすよー。ちょっと横になりますぅ。」

奈緒ちゃんは俺の膝の上に寝転がる。

ーーーーーーん?あれ?


「デジャヴ?」

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