第48話 奈緒の心の内。

玄関には刈谷が立っていた。


「何の用だ。」

「今日の事、さっきマリアから話を聞いたら、とてつもない事になってる事に気が付いて……。」

全く、余計な事を吹き込んでくれたものだな。

「キョウ君、ごめんなさい……。こんな事になっているなんて知らなくて……。」

頭を下げてくる刈谷だが、今の俺には到底、許容できるものでは無かった……。


「刈谷、すまないが明日にしてくれるか。今日はもう疲れてそれどころじゃないんだ。 明日、マリアとも話すことになっているから、その時でいいか?」

「わかりました。夜分遅く、失礼しました……。」

刈谷はそう言うと玄関を締め、去っていった……。


「大丈夫ですか?……彊兵先輩、顔色が悪いですよ…………?」

奈緒ちゃんの言う通り……、正直体調は良くない……。

「部屋に戻って寝る事にするよ。」

俺は奈緒ちゃんに声を掛け、階段を登る。

「…………………?」

俺の目の前が急に暗くなる……。

なん…………だ………?

ガタガタガタ……!!

ーーーーーー。

ーーー。



「彊兵先輩………!! 彊兵先輩!!」

目が覚めると、俺は奈緒ちゃんの膝枕で横になっていた。

「キョウちゃん、目が覚めたの!?」

「彊兵君、大丈夫!?」

聞き覚えのある声が二人……。

俺が目を向けた先には、母親の姿と湯川さんの姿もあった。 帰ってきてたのか……。


「キョウちゃん、良かった! 救急車はどうしましょう。」

「大丈夫……母さん。ちょっとした貧血だと思うから……。寝てれば治るよ。」

これ以上、ポンポン病院行って迷惑かけたくはない……。


「彊兵君、明日の事は私からマリアさんと刈谷さんにお話をして、予定をキャンセルさせて頂きます。」

湯川さんはそう言ってスマホを手に取る。

「お願いします……。」

「お母様、私が今日は彊兵先輩に付き添いますので、お休み下さい。」

奈緒ちゃんの肩を借り、階段を登る。

「お母様、私も付いていますので……。」

湯川さん姉妹が付いていてくれるならと、母親は寝室へ戻っていく。

こういうアッサリした母親だと、息子の俺からしたら有難い。 粘着タイプの母親は、何かと面倒くさそうだからな……。

倒れた俺が言うのもなんだが……。


「彊兵先輩、ベッドに座れますか?」

奈緒ちゃんは肩を貸しながら、ベッドまで歩いていく。

甘い香りが漂ってくる。奈緒ちゃんの髪の毛の香りだった。

……何で俺ってのはこういう時にまで、余計な事を考えるんだ? 変態か?


「降ろしますよー!」

ズルッ!!

ベッド脇に敷いてあるマットがズレたらしく、奈緒ちゃんが態勢を崩す。

「きゃっ………!?」

ドサッ…………!!

俺はベッドに上手く寝転がれたが、奈緒ちゃんは、何故か俺の上に馬乗りになる様に覆い被さっていた。

「だ……大丈夫……ですか?彊兵先輩…………。」

「俺は、大丈夫……奈緒ちゃんは……?」

俺の問いに奈緒ちゃんは俯きながら答えた。


「大丈夫じゃないです……!」


「どこかぶつけたの………?大丈夫………!?」

「ですから、大丈夫じゃないんです!」

寝転がる俺の両腕を押さえながら、奈緒ちゃんは馬乗りになったまま、見つめてくる。

「奈緒ちゃん……。」

心拍数が上昇しているのがわかる。

「彊兵先輩………。」


「はい、そこまでー!」

湯川姉がドアを蹴破るが如く、入ってくる。

「奈緒ちゃん……なにしてんの?」

「お、お姉ちゃん、これは……その……。」

「俺が倒れたところを庇ってくれたんです。他意はありません。」


「まぁ、彊兵君も奈緒ちゃんも、好きな人いるから、そんな事しないか!」

湯川姉のその言葉を封じる様に

「わー!!そういえば先輩、すっさまじく眠いらしいから、お姉ちゃん、部屋から出て行こう!」

と言うと、奈緒ちゃんは姉の背中を押し、部屋から出ていった。 


「何だったんだ……?」

取り残された俺は、奈緒ちゃんの謎行動に悩むばかりだった。

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