第47話 マリアの意図。その2

自宅に着いた途端に俺は自分の部屋に向かって走り出す。


「き、彊兵先輩!?どうしたんですか!?」

奈緒ちゃんの声も届かず。

俺は気になっていた。あの言葉が。


「あれからどうしてLIMEくれなかったの?」


あれからっていつからだ?

俺は自分の部屋に入るなり、スマホを手に取るとLIMEを開く。

(良かった、壊れてはいなかったようだ。)


「えぇと、マリアからのメッセージは……あったあった!20時過ぎ!? 俺達が事情聴取受けてた頃か!」 


『先輩、今日はあの様な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。 実は、最近先輩とあまり会えていなくて、恋人らしい事も出来ていなかったので、詩穂に相談したら【押して駄目なら引いてみろ】と言われました。 従兄弟に頼んで、恋人役をやってもらいました。 電話もなるべく冷たい感じに対応してみましたが、どうでしたか? 恋しくなってもらえましたか?』

……………………。


なんじゃこりゃーーーーーーー!!

あんな対応で分かるか! そもそも【押して駄目なら引いてみろ】とはかけ離れてるわ! どういう解釈したらああなるんだ!


どう考えても、普通にフラれたと思うだろ!

「一体、何をどう考えたんだ、アイツは……。」

その日はLIMEに思った事をそのまま書いて送っておいた。

『あんな対応で分かるわけがない。 押して駄目なら引いてみろとはかけ離れている。 彼氏ができたとか、普通にフラれたと思うだろ。』と。


俺はベッドにスマホを投げ捨てる様に置くと、そのまま一階のリビングに向かった。


「彊兵先輩、大丈夫でしたか!?急に走ってっちゃうから、心配しましたよ。」

奈緒ちゃんは一階のリビングで買ったものをテーブルに並べていた。


「ごめん、ちょっとやり忘れた事を思い出して。」

俺はリビングのソファに腰掛ける。

疲れた体にはやはりソファはいい!

「ご飯、食べましょ!おば様もお呼びしないと!」

「あぁ、多分この時間は寝てるから大丈夫だよ、食べよ。……あれ?お姉さんは?」

「どうしてもスフレが買いたいらしくて、また行きました(笑)」

奈緒ちゃんも、俺の隣に腰掛ける。

「スイーツ好きか。じゃあ、二人で食べよっか!」


「「いただきます!!」」

俺達は二人仲良く並んで遅い晩御飯を食べた。 いつもは話さない部活やテスト、友達の事。 奈緒ちゃんは笑顔で沢山話してくれた。


「「ご馳走様でした!!」」

弁当のパック等を片付けているちょうどその時、湯川さんの車の音がする。


「お姉ちゃん、帰ってきたみたい。」

パタパタとスリッパの音を立てながら、玄関に向かう奈緒ちゃん。

「おかえ………り……………?」

帰ってきたのは湯川さんだけではなく、マリアも一緒だった。


「湯川さん、どうして……………?」

俺は正直、今、マリアと会う気は無かった。 どうして勝手に連れてきたんだ……。


「お姉ちゃん、どういう事……?」

流石に奈緒ちゃんも困惑していた。

「マリアちゃんから、彊兵君に話したい事があるって…………。」

湯川さんは俯きながら話してくる。

「で、俺や母さんの許可もなく勝手に連れてきたって言うんですか!?」

俺の言葉に湯川さんはハッとしながらも

「どうか、マリアちゃんの話だけでも聞いてあげて欲しいんです。だから……。」


「今日はもう話す気は無いよ。明日にして欲しい。帰ってくれ。」

俺はそう言い放ち、テーブルの片付けを進めた。

「……わかりました。すみませんでした、湯川さん。」

「送っていきます……。」

マリアと湯川さんは車に乗って出ていった。


「彊兵先輩、マリアちゃんと何かあったんですか?」

奈緒ちゃんがおずおずと聞いてくる。

「ちょっとね……。奈緒ちゃんは気にしなくてもいいから。お風呂の準備してくるから待ってて!」

俺は昼間の出来事と、電話の対応でイライラしていたんだと思う。 マリアとは今は何も話したくなかった。

器の小さい男だと言われても構わない。 それだけ、俺には許せない事だった。


風呂を洗い、お湯を張っていたその頃。

奈緒ちゃんが玄関で誰かと話をしているのが聞こえてきた。


「どうしたの、奈緒ちゃ…………ん。」

玄関にいた人物。今回の諸悪の根源とも言うべき人物。 刈谷詩穂だった。

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