第29話 おまじない
ブラスト・デーモンを倒したカイは全力を出し尽くして気絶する。力尽きたカイを支えるように抱き止めたプリムは涙を流しながら回復魔法をかけようとする。そこへ様々な声や気配が近づいてくる。
「こちらです! こちらで声が聞こえました!」
「リディア様! お待ち下さい! 我々が先行して安全を確認します!」
近づいてくる声に気がついたプリムが声を張り上げる。
「ここです! 早く来て下さい! カイ様を! カイ様を助けて下さい!」
プリムが声を張り上げると数秒もしないうちにリディアが姿を現す。燃やし尽くされ破壊された森林や大地などの状況に目を奪われるリディアだが、倒れているカイに気づきすぐに駆け寄る。
「カイ! 大丈夫か! ……診たところ大きな外傷はない。呼吸も落ち着いているな……。これは疲労と激しい魔力消費か?」
リディアがカイの状態を確認して命に別状はないと判断する。また、周囲の状況から激しい戦闘が起きたことを推察する。
「リディア様! お願いします! カイ様を……カイ様を救って下さい! お願いします!」
「あぁ、わかってる。大丈夫だ! 命に別状はない。だが、ひどい疲労と魔力消費だ。ここで一体何があった? とりあえず応急処置として
命に別状はないという言葉を聞いて安心したプリムは、今まで張りつめていた身体と心の緊張が解けてしまい気絶する。気絶したプリムをリディアが確認する。
(これは……怪我だけでいうならプリムの方が重傷だ。あちこちの火傷、切り傷、打撲……。本当に何があったんだ?)
リディアが疑問を感じていると遅れていたルーア、フウ、フォルネを含む
『
◇
「……どうすればいいのかしら? 当初の予定と大幅に狂ってしまった……」
当初の予定では、ブラスト・デーモンにリコルの姿を見たカイとプリムを口封じの意味をこめて殺害させる。次に『
――というものだ。そうすることで、リコルの目撃者を消しライネス山を襲撃したのは謎の悪魔単体であったと認識させることが狙いだった。しかし、その狙いはカイにブラスト・デーモンを倒されたことで失敗してしまう。
「まさか、あんな子供にブラスト・デーモンが敗れるなんて……。それにマナと対話する人間……。危険すぎる……」
レイブンは考えるカイを放置することは魔王にとって恐ろしくまずい問題になるのではないかと。勿論、現状のカイでは魔王はおろかレイブンの足元にも及ばない。レイブンの副官であるリコルにも勝てるか疑問のレベルだ。しかし、レイブンが考えたのはカイの将来性だ。
「あの若さで、あの剣の腕……。マナの協力があったとはいえ魔法剣を操る。どう考えても厄介な存在……。殺すべきね……」
仮面の下でレイブンの瞳が鋭く光る。徐に右手をカイへかざして魔法を放つ――と思っていたが、レイブンはかざした右手を静かに下げる。
「ふ、ふふふふふ。やめたわ。よく考えたら、あの子供を私が殺さなきゃいけない理由なんてない。ブラスト・デーモンの芝居で、あの子供と
興味深げにカイを見ながらレイブンの姿は闇に包まれ消失する。
◇
次にレイブンが姿を現した場所は奇妙な空間。景色は歪み明るいのか暗いのかも、よくわからない場所だ。そこに一人の少年が元気なく膝を抱え座っている。レイブンの副官であるリコルだ。
リコルはレイブンに気がつくとばつの悪い表情を見せる。
「れ、レイブン様……」
「お待たせ、リコル。ごめんなさいね。いつまでも私の
この奇妙な空間はレイブンが魔法で生み出した空間だ。謝罪をするレイブンはリコルへ更に近寄る。
「さてと、何で私があなたをここへ飛ばしたか……。わかるかしら?」
問い詰められたリコルはすぐに謝罪をする。
「も、申し訳ありません! レイブン様! 言いつけを守らず。尚且つ任務にも失敗してしまいました。どのような罰でも甘んじて受けます! ですから、ですから、僕を捨てないで下さい……」
リコルは恐れている。レイブンからの罰ではなく必要とされなくなることを……。レイブンから見捨てられることを。レイブンはゆっくりとリコルへ近寄る。リコルは身体を強張らせる。レイブンは右手をリコルの頭部へ近づけ頭を優しく撫でる。
「えっ? れ、レイブン様……?」
意味がわからずにリコルは下げていた頭を上げる。レイブンの表情は仮面に隠され読み取れない。だが、レイブンは優しい口調で語りかける。
「反省しているなら、もういいのよ? 今回は確かに失敗だった。でもね。それは、あなたにとっていい経験になる。失敗は確かに苦い経験よ? でも、あなたならこの経験をこれからの戦いに活かせると信じている。だから、もういいわ」
「れ、レイブン様……。あ、ありがとうございます……」
リコルは自然と涙を流しながらレイブンへ謝罪する。泣きじゃくるリコルをレイブンは仮面の下で、まるで我が子を眺めるような優しい瞳で見つめていた。
◇◇◇◇◇◇
転移によりレイブンとリコルは魔王城の自室へ戻る。しかし、すぐに来訪者が現れる。部屋を訪れたのは
「レイブン様。失礼します」
「あら?
「はい。ユダ様からリコル様を連れて来るよう命令を受けています。リコル様。申し訳ありませんが、ご同行をお願いします」
「えっ? あ、わ、わかりました……」
「必要ないわ。リコルはここにいなさい」
「で、でも、レイブン様……」
「レイブン様。これはユダ様の命令ですぞ!」
制止するレイブンへ
「だから、どうしたの? リコルは私の副官。ユダの命令だろうが私の命令が優先されるのよ。それとも力づくで連れて行くつもり? ……お前達、死にたいの?」
レイブンの言葉に
「ふっ。大丈夫よ。リコルはここに残すけど私が行くから」
「えっ!? れ、レイブン様! 駄目です。僕の失敗をレイブン様に――」
リコルの言い分をレイブンは手をかざして遮る。
「気にしないでいいのよ。リコル。今回のことは元々は私が言い出したこと。あなたに頼んだのも私よ。……それに私もユダに報告したいことがあるの。さぁ、行きましょう?」
レイブンはリコルと
◇
「ユダ様。失礼します」
「入れ」
「はっ!」
扉が開かれるとレイブンが遠慮なく部屋へ入る。部屋の中には『
「ふん。まずは理由を聞こう。なぜ、お前が来た。レイブン? 私が呼んだのはリコルだ。お前ではない」
「えぇ、知ってるわ。でも、あなたがリコルを呼んだ理由は察しがついてる。リコルには私から注意をした。これ以上、あなたからとやかく言う必要はない」
ユダの問いにレイブンは、リコルを連れてくる気はないと明らかな拒絶の意思をみせる。ユダの表情に変化はないが、ユダの横にいたサーベラスは笑みを強めレイブンに茶々を入れる。
「あらあら。レイブンちゃんが、そんなに部下思いだったなんて知らなかったわー。……それとも、リコルは特別なのかしら? まぁ、確かにあの子は可愛いしねー。……ねぇ、私にも一日ぐらい貸してくれない?」
『
『
レイブンがサーベラスへ向けて放った『
「落ち着け、レイブン。それから、サーベラス。余計な口をきくなら出て行ってもらうぞ?」
「あら、ごめんなさい。レイブンちゃんも許してー? 本気じゃないわよ。冗談よ。冗談」
サーベラスの心の籠っていない謝罪を受けてもレイブンの怒りは収まらない。当然のように仮面越しでサーベラスへ殺意を込めた視線を飛ばし続ける。しかし、当のサーベラスはレイブンの殺意に気がついても、いつものように相手を小馬鹿にした態度を取り続ける。
「……なぜ、サーベラスがいる? こいつは関係ないでしょう」
「そうでもない。今回のライネス山で起きたことを報告してきたのはサーベラスだ」
ユダにレイブンはさらにサーベラスを睨みつける。その視線に気がついたサーベラスは満面の笑みを浮かべ補足する。
「いやだー。レイブンちゃん。そんなに睨まないでよー。別にレイブンちゃんを陥れることなんてしてないわよ? 事実を報告しただけ」
「……事実?」
「えぇ、私の配下の
レイブンはサーベラスを睨み続けながら質問する。
「……それで? その後は見たの?」
「その後?」
「えぇ、リコルが暴れていたと言ったけど最後まで見ていたの?」
「ふふ。それが、どういうわけか監視の
「そう」
(やっぱり、あの
監視の
「そう。じゃあ、何があったか説明するわ。あの後――」
レイブンはブラスト・デーモンを召喚してリコルの身代わりにしたこと。召喚したブラスト・デーモンが人間に敗れたことを説明する。しかし、カイがマナと対話したことについては報告しない。理由は単純だ。カイに死んで欲しくなかったからだ。機会があればカイを取り込もうと画策しているレイブンにとってユダに危険と認識されて殺害されるような情報は与えたくなかった。
説明を聞き終えたユダとサーベラスの反応は全く違っていた。ユダは人間がブラスト・デーモンを倒したことに危機感を持つ。一方のサーベラスは人間がブラスト・デーモンを倒したことを面白がる。
「わかった。では、我々の情報が漏れるようなことはなかったのだな?」
「えぇ。それは大丈夫よ。それから失敗したのはリコルだけど。それは私がリコルへの説明を怠ったせい。罰を与えるなら私にしなさい」
リコルを庇うレイブンの言葉にサーベラスが口を開きかけるが、その前にユダが先手を打つ。
「サーベラス。ご苦労だった。お前がもたらした報告の正確さは証明された。あとは、こちらでやっておくからお前は下がれ」
「えー! ……まぁ、いっか。十分楽しめたしね。じゃあ、またね。レイブンちゃん!」
サーベラスは、いつもと同じで人をからかうような仕草で部屋を後にする。部屋にはユダとレイブンだけになる。
「ふん。嫌な奴……」
「そういうな。それに今回に限ってはお前に落ち度があった。わかっているだろう?」
「……えぇ。それについては謝るわ。でも、あいつは嫌い。……なぜ、あいつを守った」
「守る? あぁ。『
「私も別に殺せるなんて思ってない。ただの嫌がらせよ」
「はぁー……」
ユダは大きなため息をついた後、レイブンへ処分を伝える。
「レイブン。今回の失敗はお前のミスだ。……だが、情報が漏れたわけでもなく大した損失もないようだ。よって、お前の功績を考慮して今回は罰など与えずに不問とする。勿論、リコルについてもだ」
「そう、ありがとう。ユダ」
用事の済んだレイブンは踵を返す。しかし、背後からユダが質問を飛ばす。
「待て! 最後に確認だ」
「何?」
「ブラスト・デーモンを倒した人間だが、……勇者だと思うか?」
真剣なユダの問いにレイブンは即答する。
「それはない。確かに普通の人間ではありえない強さだった。けれど勇者ではない。断言できる」
「……そうか。お前が言うなら、そうなのだろうな。……では、もう一つだけ聞かせろ。その人間は○○○○だと思うか……?」
唐突な質問にレイブンは仮面の下で驚愕の表情を浮かべユダを凝視すると信じられないという感情で声を漏らす。
「――ッ!? ユダ……? まさか、……あなた……まだ……?」
「……いや、いい。……すまない。今、私が言ったことは忘れてくれ。……どうかしていたな……。私と――いや、俺としたことが……」
しばらく二人は沈黙する。最後にレイブンが言葉を選びユダへ伝える。
「……ユダ……。……あの人間が……○○○○かは……私にも……わからない……。でも、可能性はあると思う……。……けど、……私は……もう信じない……。もう、……百年前と同じことを……繰り返すつもりはない……」
自分の思いを吐露したレイブンはユダの部屋から足早に出て行く。逃げるようにその場を後にしたレイブンを見送ったユダは空中を見ながら呟く。
「……百年前と同じか……。そうだな……、俺はまだ……あいつを……。ふ、ふふふふふ。……くだらない……」
一人廊下を歩きながらレイブンも呟く。
「……ユダ……。……馬鹿……」
そう呟いたレイブンの仮面から綺麗な雫が一つ流れた。
◇◇◇◇◇◇
ハーピーツーリー
ブラスト・デーモンの戦闘により負傷したカイは自室で死んだように眠っていたがようやく目を覚ます。目を覚ましたカイは暗く周囲も静寂に包まれていることに気がつく。
(……あれ? 夜? でも、あいつを倒して、そんなにすぐに目が覚めたのか? それとも、全部が夢? ……いや、そんなはずない。あれは、現実だ……。
ブラスト・デーモンを倒したのは夜中だが目覚めた今も夜中だ。つまり、ほとんど時間が経過していないことを意味すると考える。だが、カイはあることを思い出す。時間の経過よりも遥かに重要なことを……。
(そうだ! プリムは!)
その瞬間、カイは起き上がろうとしたが身体が思う様に動かせない。
「――ッ! な、何で……?」
「気がついたようだな。カイ」
「……えっ? し、師匠?」
カイが視線を向けた先には扉を開けて部屋へ入るリディアの姿だ。カイがリディアへ口を開きかけるが、その前にある忠告をする。
「あまり騒ぐな。君も完全には回復していない。それに横にいるプリムを起こしてしまうぞ?」
「えっ?」
リディアの言動でカイは気づいた自分のすぐ近くにプリムが座っていることに……。そう、今は疲労で眠っているがプリムは付きっきりでカイを看病していたのだ。
「……プリム?」
「全く。プリムも君に負けないほどの頑固者だったぞ? 自分だって怪我を負ったというのに回復した途端に君を看病すると喚きだしたのだ。そして――」
『お願いします! カイ様の看病をさせて下さい! お願いします!』
怪我を押してプリムは、フウ、フォルネ、リディアへ土下座をして嘆願する。当初は認められなかったが……、看病の許可が出るまで頭を下げ微動だにしないプリムに根負けする。プリムの怪我自体は回復魔法ですでに完治していので大きな問題はないが問題はカイの方だ。怪我自体はほとんど負ってはいなかったが一向に目を覚ます気配がなかった。既にカイがブラスト・デーモンを倒して三日が経過していた。つまりカイは三日間も目が覚めていなかった。その事実を知りカイは驚愕する。
「えっ!? み、三日ですか?」
「そうだ。それと、さっきも言ったが大声を出すと――」
リディアが最後まで言いきる前にカイの傍で眠っていたプリムが目を覚ます。視線が合いカイが目覚めていることに気がつく。
「か、カイ様……?」
「あ、ごめん。プリム。起こしちゃ――」
カイは謝罪をするがプリムはお構いなしに涙を流しカイへ抱きつき感謝と謝罪を伝える。
「うわーん! カイ様ー! 良かったー! ありがとうございます! カイ様! そして本当に申し訳ありません! カイ様をこんな目に合わせてしまって――」
「プリム。無事で良かった」
プリムが思いの丈をカイへ伝えるが……。カイはプリムの頭を優しく撫で喜びを伝える。すると、カイはまた眠りにつく。突然のことにプリムは驚くが、カイの無事が確定したことが何よりも嬉しく泣きながら喜び、再び眠りに着く。
カイの無事と成長を確認したリディアも誇らしい気持ちになり笑顔を覗かせる。
(本当に強くなった……。初めて君と出会った時とは違う。……力だけじゃない。本当の意味で君は強くなっている)
こうして、静かに時は過ぎていった――
翌朝、カイは普通に目覚めるが身体の疲労は完全には回復していない。しかし、普通に動くことは可能なため、
「なるほどのう。では、リディア殿だけでなく。カイ殿にも妾達は救われたわけじゃな……」
「えっ? そんな救うだなんて、俺は無我夢中で――」
「なはははは。謙遜するでない。カイ殿。正直、妾達ではブラスト・デーモンに勝てたか怪しいものじゃよ。妾が成人していれば問題なかったと思うが……。まぁ、それはそれじゃ。まさに、カイ殿は魔を滅する者『デモンスレイヤー』の称号に相応しい!」
フウの言葉に、周囲の
「すごい!」「デモンスレイヤーのカイ様!」「私達の救世主!」
「流石はリディア様の愛弟子!」
「ちょっと! その言い方は失礼よ! カイ様は立派な英雄でしょう!」
「そうよ! そうよ!」「カイ様ー! 愛してまーす!」
「あー、ずるーい! 私も私もー!」
こうして、
更に時間が流れ、ついに
思ったよりもカイの疲労が濃かったこともあり、目が覚めてから二週間はハーピーツーリーに滞在した。つまり修行期間を入れると一ヶ月半以上を
「では、リディア様、カイ様、ルーア様、準備をしてきますので、少しお待ち下さい」
「あぁ、頼む。フォルネ」
「はい!」
準備のために離れるフォルネ。フォルネと入れ替わるようにリディア達へ近づいてくる
プリムだ。
「あれ? プリム? どうしたの?」
「……あの、カイ様……。少し、お話したいことがあるんですが……」
「うん? いいよ」
「あ、ありがとうございます! では、こちらへ来て頂けますか?」
「うん。じゃあ、師匠、ルーア、少し話をしてきます」
「あぁ、わかった」
「いちいち言わなくてもわかってるっつーの!」
プリムはカイをハーピーツーリーで一番景色の良い場所へ案内する。あることをカイへ伝えるために……。
「カイ様……」
「何? プリム」
「あの……、私、私……」
プリムは少し俯いた後に満面の笑顔でカイへ感謝を伝える。
「私、カイ様に出会えて良かったです! カイ様のお付きになれて、とても光栄で幸せでした!」
「そんな……。俺の方こそ、プリムには感謝してるよ。本当にありがとう。だから、プリムも元気でね!」
「……はい! あと、カイ様……。
「おまじない?」
「はい。駄目でしょうか……?」
プリムは困ったような悲しいような表情になるがカイは笑顔で答える。
「いいよ。どんなおまじない?」
「は、はい! ありがとうございます! では、上を向いて下さい」
「上?」
「そうしたら、次は少し下を向いて屈んで下さい」
「屈む? はい」
「では、最後に目を閉じて下さい……」
「目を閉じる? はい」
「……少し、そのままでいて下さい……」
カイはプリムに言われた通りに微動だにしない。すると、唇に生温かい感触が生まれる。驚いてカイが目を開けるとプリムがキスをしていた。
「――ッ!」
意味がわからずカイは驚くが動くことはできなかった。二人のキスは長いような短いような時間だ。その時間は唐突に終了する。
「おーい! カイー! プリムー! どこだー! 帰る準備ができたってよー!」
ルーアがカイとプリムを呼ぶ声が聞こえてくる。現実へ引き戻されるようにどちらからともなく二人の唇は離れた。
「……カイ様。ありがとうございました……。私は……、今回はお付きではないので、ここでお別れになります。ですが、カイ様の無事をいつまでも願っています」
「……プリム。うん。ありがとう。もし、何かあったら頼って欲しい。きっと、プリムを助けるから!」
「はい!」
こうして、カイ、リディア、ルーアはハーピーツーリーを後にする。去りゆく光景をプリムはいつまでも眺めていた。後ろ髪が惹かれる様子で立ち尽くすプリムへ声が掛けられる。
「行ったようじゃのう」
「……はい。女王様……」
「良かったのか? プリム。お主はリディア殿達に――。いや、カイ殿について行きたかったのじゃろう? お主も知っておろう。妾達は自由な種族。風のように気ままに、自分の想いのままに生きても良いのじゃぞ?」
「……私はカイ様を愛しています……。ですから、ついて行きたいという気持ちは当然あります。……ですが、ついていくことはできません……」
「何故じゃ?」
「……今の私では、カイ様達の足を引っ張るだけですから……。私はカイ様に、ご迷惑をおかけしたくはありません……」
語っているプリムの瞳からは止め処なく涙が流れ出ていた。プリムの強い気持を感じたフウはプリムへ伝える。
「そうか、お主の気持ちはカイ殿に伝わっておるよ」
涙を拭いながらプリムは頷き、ある事をフウへ尋ねる。
「女王様。
「うん?
遥か昔、人間と魔物が争い続けていた時代。一人の
――別れ際にお互いの気持ちを確かめるため口づけを交わすこと。その後、二人は二度と出会うことはなく終生を迎える。お互いに誰とも結婚をすることも異性と交わることもなく。しかし、
「さてのー。古い話じゃ。真実かどうかはわからんのう。――じゃが、代々と
「……はい! 私、あの伝説が大好きなんです!」
「そうか」
このことに関係するかは不明だがプリムは誰とも交わることもなく。この約数年後に子供を産む。その子供は
◇
「では、リディア様、カイ様、ルーア様、お達者で! 何かあれば我らをぜひお便り下さい!」
「あぁ、世話になった。さらばだ」
「フォルネさん! それと
「またなー!」
カイ達は
「では、帰るか」
「つーかよ。あいつらにサイラスまで送ってもらえばよかったんじゃねーか?」
「駄目だ。
「あぁ、そういうことか。全く人間って奴は――。うん? カイ? どうしたんだよ。さっきから黙って?」
カイは一人、サイラスとは別の方向を見つめていた。
「いや……。ただ……」
「ただ、何だよ?」
「……師匠!」
カイはルーアを飛び越えリディアへ確認をする。
「どうした? カイ」
「これからの修行ってどうするんですか?」
「修行? あぁ、もちろん行っていくが君は予想を遥かに超えて成長した。だから、サイラスへ帰り一週間は基本的な反復を行い。残り三週間を私との模擬戦。そして最後の一週間は完全休養と考えているが……。それがどうかしたのか?」
カイはリディアの言葉を聞いて考えていたことを伝える。
「……でしたら、サイラスへ帰る前に行きたいところがあるんです」
「行きたいところ?」
「はい! 俺のいた村。リック村に行かせてくれませんか?」
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