きみのそばにいさせて

作者 千石京二

死が照らし出す生と愛の意味

  • ★★★ Excellent!!!

 すべて人間は死すべきものとして生きています。生命が限られたものであるという前提条件を抜きにして、私たちの生の形はあり得ません。それは当たり前といえばあまりにも当たり前のことですが、誰もが日常に取り紛れてそのことを忘れがちです。今日生きているものは明日も生きているだろうと、実は不確かなものに過ぎない予断を日々重ねながら私たちは生きています。
 そのことを得心するのに必要なのは、身近な人の死か、宗教や哲学か、あるいは物語でしょう。

 愛する人の死を扱った物語は古代以来数知れませんが、それだけに単に安易な感動を誘うことを狙った作り物めいたものもまた枚挙に暇がありません。
 しかし私たちがそういった物語に本当に求めているものは、単なる情動ではなく、身体レベルまで突き刺さってくるような切実さだと思います。
 物語に切実さがあってはじめて、読み手は日ごろ忘れていた死の意味を思い出し、その死が照らし出す生と愛の意味を切実に感じることができるはずです。

 千石京ニさんのこの短編に、わたしはその切実さを感じることができました。書き手である千石さんが技術的に優れているからなのか、どうしようもなく切実な気持ちでお書きになったからなのか、その両方なのか、それは読み手たるわたしには知るよしもありません。しかし、わたしが読みながら何度もブラウザを閉じたくなったほど強く感じたこの切実さは、紛れもなく本物であり、その一点だけを取ってもこの作品は成功していると断言できると思います。素晴らしい。★★★★★。
 

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