95.先生として

 定期試験は無事に終了した。

 生徒たちの学力からして、特に心配もしていなかった。

 採点も済ませたが、当然のように全員高得点をたたき出していた。

 彼らにとって重要なのは筆記試験ではない。

 その先、定期試験から一週間後に開催される発表だ。


 試験が終わった残り一週間は特に忙しかった。

 全員のレポートを確認して、さらに良い内容に仕上げる作業は骨が折れた。

 レポートなんて無縁だった俺にとっては、魔神と戦うよりも苦戦を強いられたよ。


 そして――


「いよいよ本番だな」


 一週間はあっという間に過ぎ、気付けば発表会場でそのときを迎えようとしていた。

 生徒たちの表情から緊張が伝わってくるようだ。

 俺も今回ばかりは緊張している。

 発表するのは生徒たちなのに、まるでわが子の晴れ舞台を心待ちにするような気分だった。


「クロ先生どうしよう……緊張してきたよ」


 三学年あるうち、一番若い俺のクラスから発表が開始される。

 そしてトップバッターはレノアだった。

 クラスの中でも極めて優秀な彼女だが、初めてのことでひどく緊張しているらしい。

 少しだけ全身が震えていた。


「大丈夫だレノア。お前は優秀だからな」


「クロ先生……」


「他のみんなもそうだぞ。お前たちは良い魔術師になろうとしている。たった数ヶ月で眼を見張る成長をしている。だからもっと自信を持て」


「うぅ~ でも緊張するよぉ」


「まぁそうだろうな。だったらどうだろう。この発表を無事終えたら、お前たちに合う魔術を伝授しよう! 一人ひとりの特性に合わせて、俺とユノアで吟味して」


「ほ、本当!?」


「ああ、魔術において俺は嘘はつかない」


 緊張していた生徒たちの眼が、キラキラと輝きだした。

 まったく単純なものだな。

 子供らしくて良いと思うけど、ともかくこれで緊張はなくなって、さらにやる気も出ただろう。


「さぁ時間だ。いってこい」


「はい!」


 司会者の合図をまって、レノアがさっそうと壇上に上がった。

 順に他の生徒たちも発表していく。

 緊張していたわりには、みんな堂々としていたな。

 そんな彼らを眺めながら、成長を実感しながら思った。


「なぁ、ユノア」


「何だい?」


「俺さ、目標ができたよ」


「そっか。聞かせてよ」


「ああ。俺は、あいつらの成長を見届けたい。それぞれの夢が叶う瞬間に立ち会いたい。そのために、あいつらの未来を守りたいんだ」


「うん」


「あいつらが夢を叶えられる未来にしたい。先生として、あいつらが夢に集中できる環境を作りたい」


 そのためには戦争をとめなくちゃならない。

 あとは種族差別をなくしたり、いろいろ障害になることをなくさないといけないな。

 やることは山盛りだ。


「どれだけ時間がかかるかわからないけど、いつか叶うときまで――」


 戦い続けよう。

 抗い続けよう。

 何度だって立ち上がろう。

 それが、第二の人生で目指すべき場所だ。


「うん、いいねそれ」


「だろ?」


「ボクも一緒にめざしていいかな?」


「始めからそのつもりだよ」


「じゃあ頑張らなきゃね」


「そうだな。頑張らなきゃだ」


 この夢は、俺一人では絶対に実現しない。

 ユノアと一緒に、生徒たちとも一緒にならないと到達できない夢だ。

 きっとたくさんの苦難が待っているだろう。

 どれだけ時間がかかるかもわからない。

 当てはあっても、途方もない旅路だ。


 だけどまぁ、幸いにも時間はたっぷり残っている。

 守るための力も、成長させるための知恵も備わっている。

 あとはそうだだな、頑張るしかないだろ。

 夢を夢のままで終わらせないために、現実にして笑い合うために――


「さぁ、授業を始めよう」


 今日も俺は教鞭をとる。

 

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