94.生徒の不安

 二日間の連休に、たくさんのことが起こりすぎた。

 俺もユノアも全然休めていない。

 それでも関係なく時間は過ぎて、休み明け最初の一日がやってくる。

 今日から定期試験が始まる。生徒たちにとって重要な一週間だ。

 どのクラスの生徒たちも、定期試験に向けて勉強し、登校しても集中をきらさずに待機していた。

 しかし、そんな中で唯一、我らがAクラスだけ様子が違った。


「おはよ~ みんな今日から――って、なんて顔してるんだよ」


 いつも通り教室に入った俺は、生徒たちの強張った表情に驚いた。

 誰一人笑っていないし、あいさつの返事すらなかった。

 怒っていると言う感じてはなく、不安とか怯えに近い表情だと思う。


「何だ? そんなに今日の試験が自信ないのか? 大丈夫だってお前たちなら」


「……」


「まぁ、うん……わかってる。茶化すのはなしにしよう」


 彼らがどうしてこんな表情をしているのかは明白だ。

 昨日の宣言、あれに嘘が含まれていることに、彼らは気付いている。

 水霊の宝玉は彼らと共に手に入れた財宝だ。だから、あの魔道具に国を守るだけの力がないこともよく知っている。

 優れた魔術師なら、あれがただのパフォーマンスだったことにも気付くはずだ。


「クロ先生……本当に戦争が起こるんですか?」


 レノアが恐る恐る尋ねてきた。


「戦争が近いのは事実だよ」


「ど、どの国と戦うんですか? それとも例の組織が……」


「ごめんな。詳しいことは話せないんだ」


「……」


「もし戦争になれば多大な被害が出る。だから起こさせないよ。戦争なんて起こさせない。俺たちが必ず止めてみせる」


「クロ先生が?」


「ああ、俺とユノアでな。知ってるか? 戦争っていうものは、する理由があって始まるものなんだよ。だから、その理由さえなくなれば戦争は起こらないんだぜ」


「でも……だけど……」


「安心しろ、なんて無理かもしれない。それでも信じてくれ。絶対にこの国を、お前たちを守ってみせるよ。俺はお前たちの先生だからな。生徒の未来のためなら、喜んで命だってかけるさ」


 かつて魔神と戦った俺は、漠然と世界のために戦っていた。

 今から思えば本気でそう思っていなかったとわかる。

 俺もユノアも、世界に対してそこまで愛着はもっていなかった。

 だけど今は違う。

 この国には守りたいものがたくさんできた。


「お前たちはよく知ってるだろ? 俺たちは強い。魔神だろうが英雄だろうが、どんな相手にだって負けたりしない。俺の言葉が信じられないなら、俺の強さを信じてくれ」


 ここで一言、俺が魔神を討伐した英雄なんだぞと、そう言えればどれだけ楽だっただろうか。

 もう教えてもいいような気もするけど、あえて言わないのは単なる意地だ。

 英雄だった俺じゃなくて、先生としての俺を信じてほしいという。自分勝手で独りよがりな意地だ。


「駄目かな?」


「……ううん、わたしはクロ先生を信じるよ」


「僕も信じます。僕たちは先生の生徒なんですから」


「あんだけつえーんだしな。クロ先生なら、戦争くらい止めれちまうだろ。いざってときはオレも戦うぜ!」


「お前ら……」


 本当に良い生徒たちだ。

 きっと心から不安が取り除かれたわけじゃないだろう。

 それでも信じようとしてくれている。


「ありがとう」


 この想いに応えられないようじゃ、先生なんて恥ずかしくて名乗れない。

 俺は決意を新たにした。

 

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