89.大気を統べる者

 俺とユノアは二手に分かれた。

 彼女の相手は大量に出現した魔物だ。

 魔物の種類は千差万別。巨人や獣、翼を持つものもいる。

 これらすべても魔物はシェフィールによって生み出されたらしい。

 にわかに信じられないが事実のようだ。


「ふぅ、すごい眺めだね」


 彼女は風を纏って空を飛んだ。

 上空から見下ろした景色は、一面にしき詰まった魔物の群れだ。

 さらに同じ目の高さにも魔物はいる。

 普通なら諦めてしまいそうな状況に、彼女は一人で立ち向かっていた。


「スゥーハァー……」


 どんな優れた魔術師でも、常に百パーセントの力を発揮できるとは限らない。

 その日のコンディションや相手との相性、さらに環境によって大きく異なってくるだろう。

 ユノアの場合、主に二つが要因となりえる。

 一つは、精霊王シルフの協力が得られるのかどうかだ。

 たったそれだけのことで、彼女の実力は大きく揺れてしまう。

 もう一つは、周囲の環境だ。

 彼女の攻撃は広範囲に及ぶものが多い。

 やさしい彼女は一般人を巻き込まないように力をセーブしてしまう。


 さて、現在の状況はどうだろう?


 一つ目の問題、精霊王の協力はすでに得られていた。

 シルフもシェフィールが危険だと判断したようだ。

 そして、ここは俺たち以外に誰もいない廃墟だ。よってもう一つの環境の問題もクリア済みである。


 つまり、彼女を阻むものは何一つない。


「行くよ――シルフ」


 空色に変化した瞳は、風の精霊王と契約した証だ。

 廃墟となった街に四つの竜巻が発生した。

 竜巻は地上の魔物たちを巻き上げていく。

 そのまま天まで昇り、巻き上がった魔物たちがボロボロと落ちていく。


 生き残っている魔物がユノアを睨んだ。


「――ごめんね」


 次の瞬間、特大の下降気流が魔物の残党を襲った。

 彼女が発生させた現象はダウンバーストという。

 積雲や積乱雲から発生する下降気流で、爆発的に吹き降ろす気流が地表に衝突して、破壊的な被害を発生させる。

 

 彼女は風の精霊王と契約している。

 それはつまり、すべての大気を味方に付けているということなのだ。


「さすがだな」


 大量にいた魔物たちが次々と倒されていく。

 彼女にとっては子供をあしらうようなものだろう。


「まぁ、こっちも終わりそうだけど」


「……」


 彼女が戦っている間、俺とシェフィールも戦っていた。

 そうして現在はこういう状況。

 激しい魔術戦が繰り広げられ、シェフィールは息をきらし汗を流していた。

 対する俺に変化はない。

 呼吸は整っているし、汗一つかいていない。

 これは当たり前のことなのだ。

 どれだけ強い魔術師であろうと、俺には決して敵わない。

 なぜなら、俺にはこの眼があるから――


「理解したか?」


「ええ……予想以上ですね。これが魔術王の眼というものですか」


「そうだよ。どんな術式だろうと、この眼の前では無力なのさ」


「そのようですね。仕方ありません……」


 彼は納得したようにそう言った。

 しかし不気味なことに、諦めているわけではないようだ。

 圧倒的な差をみせつけられて、尚不敵な笑みを崩さない。


「では、万事の次の一手に移りましょうか」


 彼は両手を合わせた。

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