88.魔物使い

 シェフィールは穏やかな表情を崩した。

 鋭く光る眼光には殺気がのり、全身からは攻撃的な魔力が漏れ出している。

 その魔力は、常人なら卒倒してしまうほど濃く重たい。


「死んでいただきましょう……ねぇ。お前に殺れるのか?」


 ただし俺には関係ない。

 向けられる殺気も、濃く重い魔力も、何一つ怖いなんて思わない。

 だからこうして笑っていられる。

 負けるなんて微塵も思っていないからだ。


 それはユノアも同じだった。

 彼女も俺が、俺たちが負けることはないと確信していた。

 これまでの経験が、潜り抜けてきた修羅場の数がそれを証明してくれる。

 俺たちこそが、この世界でもっとも強い魔術師なのだと。


 しかし――


「当然ですよ。そうでなくては、こうしてあなた方の前に立っていませんからね」


 彼も態度を変えなかった。

 俺たちが何者なのかを知りながら、ふてぶてしい態度を改めようとしない。

 その風貌が、彼を強者だと告げていた。


「だったら試してみろよ」


「では、始めましょうか」


 シェフィールは手をパンッと叩いた。

 その音が廃墟となった街に響き渡り、一面を漆黒の沼が覆った。


「これは――!?」


「来なさい。私の可愛い僕たちよ」


 黒い沼から大量の魔物が出現した。

 それも一種や二種ではない。

 形や分類、生息地も異なる二十種以上の魔物が出現したのだ。

 これにはさすがの俺たちも驚きを隠せなかった。


 さっきの黒い沼は何だ?

 俺の眼でもわからなかったってことは魔術じゃないのか。

 いや、それよりこの魔物たちは――


「どうやってこれほどの魔物を……」


「これも私が作り上げたのですよ。失われた古代の術式を使って」


「魔物を使った? 古代の術式だって!?」


 そういえば、以前に俺たちを襲ったリベレーターは魔物を従えていた。

 あの魔物は人の手によって生み出されたという話だった。あのときは嘘だと思ってたけど、どうやら本当らしいな。

 こんな光景を見せられたら信じるしかない。

 そして、もう一つハッキリした。


「そうか……そういうことだったのか」


「クロトどうしたの?」


「わかったんだよ。この街がこんな風になった理由が!」


「……まさか!」


「たぶんそのまさかだ。この街を襲った魔物は、全部こいつが作って送り込んだ魔物だったんだよ。さっきみたいに!」


 そう考えれば辻褄が合うんだ。

 ほとんど生息していなかった魔物が急に出現し、それも多種類の魔物が同時に襲ったという事件。

 すべてがシェフィールの仕業だとすればな。


「ご名答。あのとき、この街を魔物に襲わせたのは私です。リベレーターの拠点とするためにね」


「お前……」


「そんな理由で……たくさんの人を」


 ユノアも頭に血が昇り始めていた。

 もはや怒りを抑えることは困難だろう。

 ただし我を失っているわけでなく、冷静に静かに怒りを燃やしていた。


「ユノア、魔物は任せていいか?」


「うん。その代わりに」


「ああ、わかってるよ。ユノアの分まで――あの男をぶっ飛ばしてやるさ!」

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