87.いやだね

 この世界に優れた魔術師以外は必要ない。

 物心ついた頃には、すでに私はそう感じていました。

 小さな視線から見上げた世界は、とても美しくて大きかった。

 それなのに人類は争いを繰り返し、何度も何度も過ちを犯している。なんとも頭の悪い種族なんだと呆れましたよ。

 もう少し才ある魔術師を見習ってほしいものです。

 凡人が金欲や性欲に執着する中で、彼らは知識欲を満たすために探求し続けてきました。

 彼らの頑張りがあったからこそ、人類は繁栄することができたのです。

 やはり優れた魔術師以外は不要。

 他は世界にとって毒でしかない。


 ならば滅ぼしてしまいましょう。


「それがお前の目的なのか」


「はい」


「だったら、どうしてリベレーターなんて組織を作ったんだ!なぜアルステイン王国を狙う?」


「人類以外の種族には、不純物が混じっていますからね。どれだけ優れていようとも、混ざり物は美しくない。私が目指す世界に、彼らのような存在は不要です」


「不純物だと……。ならお前の部下たちは純粋だとでも言う気か?」


「いいえ。彼らもまた、この世界には不要な存在です。役目を終えてもらったら、即刻退場してもらうつもりでいますよ」


「外道が」


 あいつと話していると、どうしようもなく嫌な気分にさせられる。

 二十万人を超える構成員は、あいつにとってただの駒でしかないのか。


「他人の命を何だと思ってるんだ」


「なんとも思っていませんよ。何度も言っていますが、私が求めているのは優れた魔術師だけです。そう、あなた方のような!」


「俺たち?」


「そうです! あなた方こそ、この世界でもっとも才ある魔術師だ! 私が目指す世界の、真なる王にふさわしい存在です!」


 シェフィールは高らかに言い切った。

 穏やかな表情は打って変わり、歓喜に満ち溢れたような顔をしていた。


「あなた方、こちら側につく気はありませんか?」


「なんだと?」


「ボク達に仲間になれっていってるの? 冗談だよね」


「冗談ではありませんよ」


「なると思っているのか?」


「ええ。だってあなた方も人類にうんざりしているのでしょう?」


「何を言って――」


「ルグドニア王国に裏切られた――ですよね? 死んだことになっているあなた方が生きている。それが何よりの証拠です」


 確信をつかれたような感覚だった。

 そう、俺たちは人類に裏切られてここにいるんだ。

 守ろうとした彼らに、最後には見捨てられてしまった。

 忘れてかけていたことを、彼の言葉が掘り起こした。


「あなた方だって知っているはずだ! 人類がどれだけ愚かなのか! 身をもって体験しているのだから!」


「……」


「さぁ共に立ち上がりましょう! 我々の力で理想の世界を作り上げるのです!」


 彼の主張はもっともだと思った。

 人類というやつは本当に愚かで、欲にまみれていると知っている。

 俺もユノアもよく知っている。

 だけど――


「「いやだね」」


 俺たちはきっぱりとそう答えた。


「わかってないようだから言っておくぞ。俺にとって、人類なんて最初からどうだっていいんだよ。魔神を討伐したのだって成り行きだしな」


「ボクも世界を救いたいとか、そんな大層な理由なんてなかったな。ずっと自分の国を取り戻すことだけを考えていたから」


「だからまぁ、魔術師だけの世界を作りたいなら勝手にすれば良い。でもな? お前が滅ぼそうとしている中に、俺の生徒たちが含まれてるなら話は別だ」


「うん。ボクたちは先生だからね」


 亜人種に不純物が含まれてるとか言ってたな。

 ふざけるな。

 あいつらを構成する要素に、不純なものなんて一つもないんだよ。


「はぁ……あなたもそうなのですね。下らない正義感で動くなんて、実に愚かです」


「正義感じゃない。教え子への愛だ」


「そうですか。ならば仕方ありませんね……。ここで死んでいただきましょう」

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