86.魔神の条件

 シェフィールが口にした言葉に俺たちは絶句した。


「魔神を造った?」


『信じられませんか、精霊使いユノア。まぁ造ったと言うより、誕生を手助けしたというのほうが正しいですが』


「ふざけるなよ。あんなのを人為的に造れるわけがない」


『本当にそう思いますか? 大魔術師クロト』


 魔神の強さは俺たちが一番良く知っている。

 あんな化け物を誰かが造れるはずないんだよ。

 どんな魔術だって……いや、待て。ちょっと待ってくれ。


『その表情、やはりあなたは薄々勘付いていたようですね』


「クロト?」


「……」


 魔神の正体は元人間だった。

 魔術には無から有を作り出す力はない。

 しかし、もともと存在するものを、別の何かに変貌することならできる。

 必要な条件さえ揃えば、人間を魔神に変えることだって……いや、だけど――


『お教えしましょうか?』


「何をだ」


『どうやって魔神を生み出したのか』


「なっ、どういうつもりだ!」


『知られたところで困ることではありませんからね。それに、あなた方には知る権利がある。魔神を打ち倒したあなた方には』


「……」


 嘘や罠である可能性は高い。

 それでも知りたいと思った。

 目の前に真実があるかもしれない、そう思うと聞かずにはいられなかった。


『魔神の元となった人間は、私の教え子でした。彼はとても優秀で魔術師の才に溢れていましたよ。ですが不幸にも、彼は厳格な貴族の生まれでした』


 リュミウス。それが魔神となった青年の名だった。

 貴族の中でも厳格な家系に生まれた彼は、優雅というより窮屈な毎日をおくっていた。そこへシュフィールは現れた。

 初めて間近で魔術を見た彼は、一瞬で魅了されてしまった。

 それから家族に内緒で魔術の修行に励み、数ヵ月後にはシェフィールも認めるほどの魔術師に成長した。


『彼は私に言いました。すべて先生のお陰です。僕もいつかは、先生のような魔術師になりたいです――と』


 リュミウスは両親に打ち明けた。

 秘密で魔術の修行をしていたことを、そして魔術師になりたいという夢を話した。

 厳格な両親ではあったが、自分の子供が本気で目指したいと言うなら、許してくれると思った。


『それが甘かったのです。彼の両親は激しく怒りました。我が子を失神するまで殴り倒し、聞くに堪えない罵声を浴びせて牢へ放り込んだんです』


 その瞬間、彼の中にあった善意や希望は消え去った。

 残ったのは煮えたぎる怒りや殺意、どす黒い負の感情だけだった。


『私は牢へ向かい彼を救出しました。そこでこう言ったのです』


 憎いでしょう、悔しいでしょう。

 ならば壊してしまいましょう。

 君は選ばれし者だ――だから何をしたっていいんですよ。


『そうして彼の魔力を暴走させ、ついに誕生したのが魔神です』


「……やはりそうか。人間が魔神になる条件は、激しい絶望や怒りという感情と、自身の魔力の暴走」


『その通りです! さすが最強最高の魔術師だ。あーそうそう、伝え忘れていましたが、彼の両親をたきつけたのは私です』


「だと思ったよ」


 この男からは腐ったドブのような匂いがする。

 そんな奴が善意で手助けなんてするわけがない。


『魔神を生み出すことは、最初から私の計画の一部だったのですよ。彼は本当に良い駒でした』


「なんてことを……」


「お前……一体何がしたかったんだよ! 魔神を使って世界を滅ぼしたいとでも思ってるのか!」


『いいえ、私が行ったのは選別です』


「選別だと?」


『はい。そのために魔神という武器が必要でした。優れた魔術師だけを選別し、それ以外を淘汰する。それが私の目的なのだから』


 シェフィールは語りだす。

 内に秘める野望を――

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