85.邂逅

 俺と同じ位の背丈に体格、灰色の髪、紫色に怪しく光る瞳。

 それが目の前に立っている男の特徴だった。

 こうして相対しているのに、ちゃんと視覚に捉えているのに、未だおぼろげにしか存在を感じ取れない。

 俺とユノアは、これまでの経験を踏まえて、危険な場所で注意を怠ったことなど一度もない。

 

 それでも気付けなかった。


 気付けばその男は立っていた。

 当たり前のように、風景の一部のように立っていたのだ。

 そうして俺たちは悟った。

 この男は、今まで出会ったどんな魔術師よりも危険だと――


『ふふっ。これはこれは、ただ手強い魔術師だと思っていましたが……とんだ大物がつれましたね。大魔術師クロト、そして精霊使いユノア』


 こいつ、俺たちの正体を知っている?


 男は不敵な笑みを浮かべていた。

 そしてとても穏やかだった。

 まるで眠っている子供と対峙しているような、そんな錯覚すら感じるほどに穏やかだった。


『いやはや、私が張った結界をいとも容易く破壊された時にはもしやと思いましたが……。よもや、かの大英雄が顕在だったとは驚きました。しかし、ならば当然と納得もできる。あの程度の結界や罠では、あなた方を倒すことは不可能でしょうからね』


「何者だ、お前は」


『おや、そういえば自己紹介がまだでしたね。お初に御目にかかります。私の名はシェフィール、リベレーターを従える者です』


 そうかこいつが……。

 捕らえた構成員が吐いた情報に、シェフィールという名はあった。


「とんだ大物はこっちのセリフだ」


 予想外の展開だ。

 敵の痕跡を探っていたら、まさか親玉から顔を出してくるなんて。

 しかも、周囲に他の気配はない。

 この男はたった一人で俺たちの前に現れたんだ。


「どういうつもりだ?」


『何がですか?』


「お前がリベレーターのトップなんだろ? そんな奴が、護衛も付けずにノコノコと俺たちの前に出てくるなんて」


『もちろん、あなた方を殺すためですよ』


 シェフィールは穏やかな表情を崩さず、鋭い殺気を加えて俺たちを見た。

 どうやら本気で言っているらしい。

 俺たちの正体を知った上での発言。そうとうな自身を持っているようだ。


『しかし私は本当に運が良い。これであなた方に借りを返すことができるのだから!』


「借りだと? この間の襲撃を台無しにしたことか?」


『そんなことは些細なものです。あなたたちにはもっと大きな借りがある』


「俺は何も貸した覚えなんてないがな」


「ボクもないよ。そもそも、ボクたちは今初めて会っているはずだ」


『おや、どうやらご存じないようですね』


 彼はニッコリと笑った。


『――魔神』


 そしてこの後、衝撃の事実を口にする。


『あれを造ったのは私です』

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