84.痕跡探し

 ロールットの街は噂で聞いた通りボロボロだった。

 人が住める環境はなく、動物すら住み着かないほど荒んでいた。

 壊れ崩れた民家、腐り折れた街路樹の残痕、人間の骨らしき白い棒が転がっている。

 結界や罠を破壊して街へ入った俺たちは、奇妙な虚しさを感じつつ歩いた。


「何もないね」


「ああ」


 リベレーターが拠点にしていたらしいが、今のところ痕跡らしきものは見当たらない。

 そもそも建物は全部壊れているし、潜伏できるような環境でもなかった。


「これは……全部が罠だったかもな」


「うん。とてもじゃないけど、ここに何日も篭るなんて無理だよ」


「だよな。数人ならともかく、何千という構成員を潜伏させるには悪環境過ぎる。まぁだからこそ、潜伏という面では正解なのかもしれないけど」


 予想以上に街は原型を保っていなかった。

 そしてもう二十分近く歩き回っているが、一向に痕跡は見つからない。

 もし誰かが潜伏していたのなら、たとえ痕跡を消そうとしても残るはずだ。

 大所帯ならなおさらもっと残る。

 しかし実際はまったく見つからない。

 眼を使って魔術的痕跡も探っているけど、最初に破壊した術式以外はなさそうだな。


「やっぱり何もないみたいだよ」


「う~ん、どうするか」


 街を一周ぐるりと回り終え、中心部に戻ってきた俺たちは頭を抱えた。

 せっかく遥々訪れたというのに収穫なし。

 それはかなり虚しいが、ないものはないのだから仕方がないとも思い始めていた。

 そして、痕跡がないとわかってら、徐々に俺たちの興味は別のことに向き始める。


「ねぇクロト、どうして二年前、この街に魔物が大量発生したのかな」


「さぁな。何か理由はあると思おうけど」


 魔物が大量発生する事案は珍しくない。

 群れを成していた魔物が、他の生態系を貪り繁殖し、やがて大きな群れとなることはある。

 ただし、それは一種類の魔物であればだ。

 聞いた話によると、街を襲ったのは一種類の魔物ではなく、十種を超える魔物たちの大群だったという。

 それだけの魔物が一度に集まり、さらには増えるなど普通はありえない。


「偶然重なったとか?」


「まぁそれも可能性としてはありえるだろうな。でも突然現れたって話だったろ。つまり今までは魔物なんてほとんどいなかったんだよ」


「それが急に増えた……」


「ああ。それが偶然だといえばそれまでだよ。だけどもしかしたら、誰かが――」


『魔物を生み出した、もしくは手引きしたかも?』


 その声は自然に会話へ入ってきた。

 聞き覚えのない声、穏やかな男性の声がした。

 俺たちは気付けなかった。

 いつの間にか目の前に、見知らぬ男が立っていたのだ。

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