83.滅んだ街

 王城を構える主要都市から南へ下ると、大きな渓谷地帯に突入する。

 そこにはワイバーンなど飛竜種の魔物がたくさん生息しており、地上をわたる場合は基本的に迂回路を行く。

 空を飛べる者でも、ワイバーンの速度を越えられなくては突破が難しい場所だ。

 俺たちの乗るグリフォンは、その基準を軽々超えている。

 問題なく渓谷を抜け、その先にあるロールットという街を目指していく。


「廃街ロールット。二年前、大量の魔物が出現したころで滅んだ街……だったよね」


「ああ。原因不明の大繁殖をきっかけに、人口数千人が一夜にして全滅したらしいな」


「それなりに大きな街で、首都に負けないくらい繁栄してたって話も聞いたね。今ではもう見る影もなくて、完璧な廃街になってるみたい」


「政府もほったらかし。そりゃあ潜伏するには最適だな」


「うん。でも拠点だったとして、まだいるのかな? ボクなら別の場所に移動するけど」


「そうかもな。ただ痕跡が残ってるかもしれない。それに罠を張ってくれてるなら、そっちのほうが逆にありがたい」


 少しでも情報が得られればそれで良い。

 陛下の反対を押し切って二人で来たんだ。

 何の成果も得られずオメオメ引き返すなんてできないからな。


「見えてきたぞ」


 グリフォンから見下ろす景色の先に、壊れた建物や抉られた地面が入ってきた。

 周囲を警戒しつつ高度を下げていき、街の入り口らしき場所へ着地。

 本来は石の塀で囲まれていたのだろう。

 街を円状に囲ってあった跡が残っていて、大きな門が半分だけ原型を保っている。


「本当にボロボロだね」


「そうだな」


 かつて魔物よって滅ぼされた街。

 そのえぐい爪あとが現在も残っているようだ。

 ユノアが街の中へ入ろうと一歩踏み出した。


「ストップ」


「わっと、どうしたの?」


 俺は魔術王の眼を通して街を見た。

 肉眼では確認できない透明の膜がドーム状に覆っている。


「結界だ。他にもいくつか術式が仕掛けられている」


「ってことはやっぱり」


「ああ、罠だな」


 どうやら俺たちの予感は当たっていたらしい。

 街全域を結界が覆い、地面や壊れた建物には、複数の術式が展開されていた。

 仕掛けられているのはどれも攻撃的な術式ばかり。

 さらに結界の性質は、侵入者を拒むのではなく閉じ込め惑わせるタイプだ。


「人の気配はないね」


「ああ。罠だけ張って別の拠点に移動したか」


「その可能性が高いかも。どうする?」


「もちろん調べるさ。もぬけの殻だとしても、何か手がかりが残ってるかもしれないしな。その前に――」


 俺はパチンと指を鳴らした。

 音が街に響くと同時に、仕掛けられた術式や結界が消滅した。


「これで良し」

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