82.出発

 休日の朝。

 日の光が大地を照らし、鳥たちが踊るように天を駆け巡っている。

 鳥たちが見下ろす先には、二人の魔術師が立っていた。

 そこは王城と街を隔てている正門前だ。


「準備はいいか?」


「ボクは大丈夫だよ」


「そっか。それじゃ――」


「待ってくれ」


「陛下、見送りにきてくれたんですか」


「……」


 陛下は申し訳なさそうな表情で俺たちを見つめた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「君たちだけでいく? どういうつもりなのだ」


「どういうつもりも何も、そのままの意味ですよ。遠征には俺たち二人だけで向かいます。大部隊の編成は必要ありませんよ」


「何を馬鹿なことを言っているのだ! 確かに君たちは強い。しかし、だからといってそんな危険なことをさせられるわけがないだろう!」


 陛下は珍しく声を荒げてそう言った。

 怒っているというより心配してくれているのだろう。

 それでも俺は首を横に振った。


「危険だからこそです」


「どういうことだ」


「理由はいくつかありますが、一番は……これが罠かもしれないことです」


 国内に拠点があるという予想は以前からあった。

 しかし幾度と調査を進めても、これまで痕跡一つ見つからなかったと言う。

 今回の情報源は、以前の襲撃の際に捕縛した構成員たちだ。


「仲間が捕まったことを、彼らは知っています。もし俺が彼らなら、確実に罠を張っていますよ。仮に大部隊を編成して、その罠に嵌って全滅なんてしたらどうなります?」


「それはそうだが……」


「俺もユノアも万能ではありません。人数が多くなればなるほど、俺たちは戦い難い。それに大勢の眼がある場所では、本来の力を見せられませんからね」


「うむ……」


 そんなことをすれば正体がバレてしまうかもしれない。

 遅かれ早かれいつかはそうなるかもしれないが、この件にルグドニア王国が関わっているとすれば、それがハッキリするまで公にしないほうが懸命だと思う。


「それにあくまでも調査なんです。もし危険だと判断したら引きますから」


「ボクたちなら大丈夫です」


「……わかった」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「気をつけて。もし君たちに何かあれば、生徒たちも悲しむ」


「わかっていますよ。必ず無事に戻りますから」


「陛下もお気をつけてください。ボクたちがいない間に、何か起こる可能性だってあるんですから」


「うむ。そのときはすぐに連絡しよう」


「はい。では行ってきます」


 俺はグリフォンを召喚し、ユノアを乗せて飛び立った。

 離れていく地上を見下ろし、空がどんどん近くなるにつれ、陛下や王城が小さくなっていく。

 ふと視線が魔術学校に向き、必ず戻るという誓いをあらたにした。


 目指すは南の街。

 ロールットという、すでに滅んだ街だ。

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