80.試験勉強

 レポート作成の期限は定期試験の一週間後である。

 さらにその三日後、全体での発表が控えている。

 発表の場には様々な人物が出席され、生徒たちの思想や素質を評価しに来る。よってこの発表は、卒業後の進路を決める上でとても重要な役割を持っているのだ。

 Aクラスは成績優秀者の集まり、だからこそ皆期待して発表を聞きにくる。

 もし無様な発表をしようものなら、その時点で出来損ないの烙印を押されかねない。

 生徒たちにとっては色々な意味で緊張する時間だろう。


「それでみんな、もうテーマは決まったか?」


「わたしは決まってますよ!」


「わ、私も……一応は……」


「オレはもちろん全然だ!」


「オイラも!」


「なぜ君たちは偉そうなんだ……」


「そーいうローランはどうなんだよ」


「僕かい? 僕も決まってるよ。といっても、テーマだけで中身のほうは全然だけどね」


 なるほど、わかっていたけど生徒によって進行度はバラバラのようだ。

 

「テーマに関してアドバイスをすると、自分が一番自身を持ってる分野にすることをおすすめするよ。今回は研究とは違うし、自分なりの考えを発表するだけだから、今後に繋がるテーマが理想的かな」


 発表は年に二回。

 最初と最後の定期試験と同時期に行われている。

 発表内容も二回で異なり、最初の一回目はテーマの発表とそれについての予想、あるいは考察の一部を発表する。

 続く二回目までにデータを収集し、それを統合解釈した内容を発表する、という流れだ。


「本当に大変なのは二回目なんだから、テーマくらい自分で決めれなきゃ駄目だぞ。まだ決まってない人は、明日までに考えてくるように」


「はーい」


 魔術師はスポーツ選手とは違う。

 単に魔術を行使できるだけでは名乗れない。

 魔術を真に理解し、さらなる進化や発展をもたらそうとする者を魔術師と呼ぶ。

 それ以外は魔術使いだ。

 少なくとも、自分自身を深く理解しなくては、魔術の深遠にはたどり着けない。

 自分の得意分野を研究することは、自分を理解することにも繋がる。


 正直に言ってしまうと、レポートそのものはどうでもいい。

 いくら丁寧な文章が書けても、よくまとめられていたとしても、自分のものにしていない知識に意味はない。

 大切なのは理解すること、自分の知識や経験に昇華することだ。


「クロ先生ー」


「ん、何だ?」


「先生だったらどんなテーマにするんですか?」


「俺のテーマか。う~ん、そうだなー」


 自分で言うのも恥ずかしいんだけど、魔術師としての俺はほぼ完成されている。

 今さら研究したいことなんてない。

 ただまぁ、一つだけ心残りがあるとすれば――


「魔神となった人を、魔術で元に戻せるのか」


 今でも鮮明に覚えているよ。

 俺たちが討伐した魔神の、彼が最後に残した悲痛な言葉。


 ――早く死にたい。


 俺は一生、忘れることはないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます