78.いつも通りに

 リアスト海岸での研修を終えたAクラス一同は、二日間の休日を挟んで通常の授業に戻った。

 山脈での経験を含め、学生では体験できないことをいくつも経験した彼らにとって、いつも通りの授業は退屈――


「クロ先生! その魔術ってあたしたちにも使えるの?」


「もちろん使えるぞ。めちゃめちゃ練習がいるけどな」


 そういうわけでもなさそうだった。

 貴重な経験はむしろ、魔術への探究心向上に作用してくれたらしい。

 帰ってから最初の授業は特に驚いたけど、みんなの意欲が明らかにあがっていた。


「何だよお前ら、妙に気合入ってるじゃないか」


「そりゃそーだぜ! あんなもん見せられたんだからよぉ!」


 イズキの言うあんのもんとは、海底ダンジョンの最深部、俺と騎士との戦闘だ。

 あれは生徒たちにとってかなり刺激的だったらしい。

 自分もあんな風になりたい。

 生徒たちはそう思うようになったようだ。


「ねぇクロ先生」


「何だ? レノア」


「わたしが先生みたいになるには、どのくらい修行すれば良いの?」


「どのくらい? どのくらいかぁー、う~ん……正直よくわからん。魔術師の到達点はバラバラだし、お前の言う俺みたいにっていうのは、一生かけてもなれないかもしれない」


「そうですか……」


「なに落ち込んでるだよ。さっきも言ったけどな。魔術師の到達点は一つじゃないんだよ。だから別に、俺みたいになれなくてもいいんだよ。お前はお前らしくなればいい」


「わたしらしく……ですか」


「今はまだわからなくて良いよ。自分の魔術を極めていけば、いずれ必ずわかるからさ」


「……はい! とにかく頑張れってことですね!」


「まぁそういうことだ。それじゃ、皆に頑張ってもらうためのアイテムを授けよう!」


 今さらだが現在は俺の講義中だ。

 教卓で話す俺を生徒たちが席に座って見ている。

 そして扉が開き、ユノアが木彫りの箱を持って入ってきた。


「持ってきたよ」


「ありがと。みんな前に集まってくれ」


 生徒たちがぞろぞろと集まってきた。

 木彫りの箱を覗き込むと、綺麗な宝石のはめ込まれたペンダントが人数分収納されていた。


「あっ! これって宝箱にあった!」


「正解だ、ネロ。前に説明した魔石だ。一人一つずつ持っていってくれ」


 魔石には魔力を蓄える力がある。

 この力を用いれば、現時点で魔力量が劣る状態でも大魔術が行使できる。

 様々な状況において切り札となりえる道具だ。

 

 ちなみにいくつかあった他の魔道具に関しては、ずべて俺とユノアで管理している。

 中には普通の人間が触れてはいけない類のものもあったからな。

 あと大量にあった黄金は、ほぼすべて王国に献上した。

 もったいないと思われるかもしれないけど、俺たちにとってお金はあまり重要じゃないんだ。


「さぁ。授業を再開するぞ」


 ただ日常に戻ったわけじゃない。

 一日一日を越えるたび、生徒たちは着実に成長していっている。

 そんな彼らを導くため、俺は今日も教鞭をとる。

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