75.反転騎士

 俺と騎士の戦いは流れ作業の域に達しつつあった。

 素早い動きにも慣れ始めてきた俺に対して、魔道具である騎士には慣れがない。

 様々な魔術の応酬と、自身と対等に切り結べる剣術に、もはや対応できなくなっていた。

 生徒たちも眼が慣れ始め、細かい動きまで観察できるようになっている。

 

 あと少しで決着だ。


 生徒たちもユノアも、戦っている俺もそう感じた。

 しかし――


 パキッ


 どうやらそう簡単には終わらないらしい。

 白銀だった騎士の鎧が、砕けるような音を立てながら剥がれ始めたのだ。

 まるで塗装がはがれていくように変化していく。

 そうして曝け出したのは、白とは対極、漆黒の鎧だった。


「この感じ……」


 雰囲気が変わった。

 俺は直感的にそう思った。

 確かめるように炎を生み出し、撃ち放った。

 この炎は着弾と同時に爆発する。

 これまでは剣で切り裂いて防御していたが、今度は切っ先を炎に向けた。


 切っ先に炎が触れる。


 その瞬間、炎は爆発することなく剣に吸収された。吸収が終わると同時に姿を消し、気付けば俺の左側から剣を振りかざしていた。


「くっ」


 俺は瞬時に壁を生み出し防御した。

 そして理解した。

 今の騎士は、剣で魔術を吸収し、自身の力に変換することができるらしい。

 炎も魔力障壁も吸収された。

 今もこうして剣を合わせているだけで、俺の魔力が吸われている。

 ダメージ蓄積でモードが切り替わったのか。


 状況が変わった。

 今の騎士相手に長期戦は不利になる。

 下手に強力な魔術を行使すれば、さらなるパワーアップの機を与えてしまうかもしれない。

 こうして切り結んでいる間にも、徐々に剣の速度と力が上がっている。

 そららの情報を整理しつつ、ある結論を導き出した。


「悪いみんな。ここから先は、たぶん見えない」


 そのセリフを最後に、生徒たちの視界から俺と騎士が消えた。

 厳密には消えたのではなく、認識できない速度になったのだ。


 この手の敵に対する戦い方は、大きく分けて二パターン存在する。

 一つは、急進限界まで魔術を使い続けパンクさせる方法。

 そしてもう一つが、極力魔術を使わず、それ以外の手段で戦う方法だ。

 よく前者の方法が用いられることが多いと思う。しかし現状、吸収すればするほど強くなる敵に対して、この方法は悪手である。

 よって今回は後者の方法が正しい。


 俺は全力も全力で剣を振るった。

 そもそも俺が剣術を身につけたのは、こういう魔術が使えない状況でも戦えるようにするためだ。

 正直、この速度にまで対応されたのは驚いた。

 それでも――


 俺の方が速い。

 俺の方が強い。


 俺は魔術師で剣士じゃない。

 ただし、俺より強い剣士なんてそうそういない。

 幾度の鍔迫り合いで刃こぼれし、何度も打ち合う衝撃に手が震えてしまう。

 渾身の一振りは、騎士の剣を両断し、その首を宙へと舞わせた。

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