74.正転騎士

 白銀の鎧を纏い、腰には重厚なる剣が構えられている。

 漂う空気が張り詰め、今にも切れてしまいそうなほど繊細だ。

 あの騎士は動いていない。じっと立っていて、こちらを見ているようにも思える。

 ただ立っているだけ、それだけなのに――


「なに……これ」


 寒気が止まらない。

 生徒たちはそう感じていた。

 俺とユノアが感じていた感覚を、彼らもようやく感じ取った。

 騎士を目の前にして、やっと実感することができたのだ。


「それ以上一歩も動くなよ」


「クロ先生……」

 

「あれはお前たちの手に余る。さっき戦った竜の石造なんて非じゃない」


 生徒たちはごくりと息を飲んだ。

 俺の言っている意味と、自分が感じている感覚がリンクし直感した。

 一歩でも踏み込めば、命を刈り取られてしまうと。だから一歩たりとも進めなかった。

 今、この状況で動けるのは俺とユノアだけた。


「ユノア」


「任せて」


「任せた」


 端的なやりとりを交わし、俺は無造作に踏み込んだ。

 生徒たちが死地だと直感した領域に、なんの躊躇もなく乗り込んだ。

 それがどういう意味を持っているのか、わからない生徒たちではない。


「みんな良く見ておいて。これから君たちが目指すべき道を、彼が示してくれるから」


 ユノアのセリフをうけて、生徒たちはぐっと眼を凝らして俺を見た。

 そして、俺が徐々に近づいていくと、騎士は腰に携えた剣に手を伸ばした。対する俺も、魔術で空間を繋げて一本の剣を取り出した。

 感覚でわかる。あれは魔術的に動く人形だ。

 この眼を使えば簡単に無力化できるただの魔道具だ。

 中身のない人形から、これほどの殺気が伝わってくるのは、それだけ強力な魔道具だからだろう。


「――来い」


 大きく一歩を踏み込んだ。

 俺が剣を振りぬくと、騎士も剣を抜きさった。

 激しい衝撃と金属音が、さながらゴングのように鳴り響き、戦いの幕開けを告げた。

 剣と剣が交わりあい、致命の間合いで切り結ぶ。


「すごい……」


 クラスで唯一剣術を会得しているトールがそうもらした。

 彼の目から見ても、俺の戦いは異常だった。

 魔術師でありながら、圧倒的な剣の才も兼ね備えていたのだ。だからこの騎士の動きにもついていける。

 常人では反応できない斬撃に対応できている。

 ただし、それでも俺は魔術師で、もとより剣に生きるものじゃない。


「雷鳴よ――」


 騎士は動きが速く、普通に魔術を放っても当たらない。

 落雷を騎士の左右に落とし進路を制限。すかさず雷撃を騎士に向けて放つ。

 左右には動けないため攻撃は当たった。しかし剣で簡単に弾き飛ばされてしまった。

 落雷という光速の攻撃にも対応できるらしい。

 今度は飛行魔術で空中を立体的に移動し、騎士の背後へ向かった。

 当然これにも追いつかれ、カウンターの横切りを繰り出してきた。


 ここだ!


 騎士のカウンターが決まる直前、転移魔術で反対側へ移動した。

 攻撃をキャンセルできないギリギリまで粘って、当たるより一瞬速く躱し、背後から斬撃を浴びせた。

 光速に対応できる速さがあっても所詮は魔道具。なんでも柔軟に対応できるわけじゃなさそうだ。


「さすがだね。クロト」


 ユノアは小さな声でそう言い微笑んだ。

 彼女は気付いているようだが、これは俺本来の戦い方ではない。

 使っている魔術も、いずれ生徒たちが使えるであろうレベルのものしか使っていない。

 あくまで生徒たちに見せるため、授業の一環として戦っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます