64.海底ダンジョン

 冷たい海水に足を入れ、身震いする寒気に慣れながら一歩一歩進んでいく。

 生徒たちには水中呼吸と身体強化の魔術を施させた。

 さらにこれから向かうのは海底三〇〇メートル、光も届かない場所だ。

 当然視界は暗くて悪い、そして水中ゆえに声は発せられない。だから暗視と思念疎通の魔術を生徒たちに施した。

 この二つに関しては、習得に時間がかかるため教えられなかったのだ。


 水深五〇メートルを超えた辺りから、太陽の光は届かなくなってきた。

 ゆっくりと進む中、一旦振り返って生徒たちに尋ねる。


(全員、俺の声は聞こえているな)


 生徒たちは縦に首を動かした。

 先頭を俺が進み、最後尾ではユノアが見守っている。

 海の中にも魔物は生息しているから、用心しなくてはならない。


 今のところは問題なしか。

 前に来たときは、何体か魔物がいたけど、あの時に駆除しておいて正解だったな。

 さすがに一週間じゃ増えたりしないみたいだ。

 

 そのままさらに奥へと沈んでいった。

 深く潜れば潜るほど、水圧の関係で身体に負担がかかってくる。

 強化魔術で補ってはいるが、さすがに二〇〇メートルを超えた辺りから、つらそうな顔をする生徒が増えてきた。


(大丈夫か、アイーシャ)


(はい。まだ平気ですわ)


 アイーシャは笑顔でそう答えた。

 多少無理して笑っているようだが、この表情なら大丈夫そうだな。

 他の生徒たちも、辛くても限界にはまだまだ遠い感じがするし。

 それでも長く時間がかかれば負担も多くなる。

 なるべく早く、あの場所にたどり着いたほうが良い。

 あそこなら水圧の影響も受けないし、水中呼吸も必要ない。

 今から向かっているのは、そういう場所だ。


(ちょっと急ぐぞ)


 そこからは水を蹴って移動した。

 周囲は暗く、生物も見当たらず、ただ何もない空間が広がっていた。

 ずっとこんな場所を進んでいると、ノイローゼになんてしまいそうになる。

 俺もこの間下見に来たときは、何も無いんじゃないかと思った。

 しかし――


(クロ先生!)


(おっ、見えてきたな)


 最初に気付いたのはレノアだった。

 彼女は俺のすぐ後ろについていて、それを見つけた途端驚いて立ち止まった。

 さらにローランが気付き、同じように立ち止まった。

 次へ次へと視界に映ったそれは、生徒たちを釘付けにした。


(あ、あれってまさか……)


(そのまさかだよ。あれは海底遺跡、またの名をダンジョンだ)


 海底三〇〇メートルには巨大な建造物が沈んでいた。

 ローマの神殿風な外見、周囲は特殊な結界で覆われており、光源の魔道具が設置されていて、そこだけ妙に明るくなっていた。

 生徒たちは目を輝かせた。

 俺が予想した通り、彼らの頭は期待で溢れ返った。

 水圧の辛さなど完全に忘れ、未知なる冒険に心を震わせていた。


(さぁ。冒険を始めようか)

 

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