62.リアスト海岸

 リアスト海岸は、魔術学校から南へ数十キロ下った先にある。

 俺とユノアがグリフォンに乗ってそこへ向かっていた。

 一応研修先の下見という名目になってるが、本当は二人で休日を楽しく過ごしたいと思っていたりもする。


「到着だな。ここがリアスト海岸だ」


「相変わらずグリフォンは速いね。当日はまたみんなを転移させるの?」


「そのつもりだよ。先にマーキングだけしておくか」


 俺は近くにあった岩に、転移魔術のマーキングを施した。

 これで次回来るときには、モッテル山脈のときと同じ方法で生徒たちを送り届けることができる。


「さて、どうする?」


「う~ん、どうしようねぇ」


 俺とユノアは、二人で海を見ながらそう呟いた。

 ここリアスと海岸は、比較的波も穏やかで観光向きの海岸とされている。

 砂浜も整備され綺麗で、海の潮騒が心地よく耳に響いてくる。


「……」


「どうしたの?」


「いや、そういえば初めて見るなと思ってさ」


「海なら何度も見てるよね?」


「違うよ。お前の水着姿だ」


「あっ、確かにそうだったね」


 ユノアは自分の髪と同じ色をした水着を着ていた。

 まだ季節的に肌寒いので、うえからパーカーを羽織っている。

 一応俺も着ているけど、男の水着なんて説明されても嬉しくないだろ。


「あんまりジロジロ見ないでよ。ボク子供みたいで、あんまりスタイルには自信ないんだから」


「そんなことないって。少なくとも俺は気にしないから。あーでも、今のお前を他のやつらには見せたくないかな」


「なんだよそれ。魅力のない彼女で悪かったね」


 ユノアはむくれてしまった。


「勘違いするな。そういう意味じゃなくて、可愛いから独り占めしたいってだけだ」


「なっ……」


 彼女の顔が真っ赤に染まった。

 嬉しい反面恥ずかしくて仕方がないという表情だ。

 俺だってこんな恥ずかしいセリフ、他の誰かがいる場所だったら絶対に言わない。

 ここに俺たち以外誰もいなくて、彼女が落ち込んでいるように見えたから、勇気を出して言っただけだ。

 正直内心は恥ずかしくて発狂しそうだよ。


「そっか。だったら仕方ないね」


 それでも、彼女が嬉しそうに笑ってくれてほっとした。

 この後は一時間くらいのんびり過ごした。

 他愛のない話をしながら、波打つ浜辺を二人で歩いた。


「ねぇ、そろそろ決めないと」


「何を?」


「研修の内容だよ」


「あっ、忘れてた」


「だと思ったよ」


 いつの間にか主目的を忘れてしまっていたことに気付かされた。

 少し焦り気味で辺りを見渡しても、穏やかな海と綺麗な浜辺しか見えない。

 宿泊施設がある場所も、これといって興味をそそるものはなかった。


「あとは、海の中くらいか」


「潜ってみようか」


「そうだな」


 俺たちは海へと足を入れた。

 まだ季節的に寒くて、海の水は思った以上に冷たく感じられた。

 魔術で体温を保ち、さらに水中での呼吸を可能にしたから、沖のほうへと潜っていった。

 水中では会話できないので、魔術でテレパシーを送り合っている。


(クロト、あれみて)


(――おっ、あれってまさか)


(うん、たぶんそうだと思う。あれ使えるんじゃないかな?)


(ああ、良いものを見つけたな)


 海の中にあったのは、はたして何だったのだろうか。

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