60.帰りの試練

 課外研修は滞りなく進んだ。

 三日目から開始された飛行魔術を用いたチーム戦も、最終日正午には三十戦を超えていた。


「よっしゃ取ったぜ!」


「あぁ~もう! またイズキ君か!」


 悔しそうに下唇をかみ締めるネロ。

 何戦も続けていくうちに、生徒たちは空中を自在に飛びまわれるようになっていた。

 中でも目を見張る成長を遂げているのが――


「イズキ、今度は僕が勝つよ」


「はっ! 返り討ちにしてやるぜ!」


 イズキとローランだった。

 飛行魔術においては、どうやら彼らが一番向いていたらしい。

 魔術にも向き不向きがあるのだ。

 そうして訓練は終了し、昼食の時間になった。


「みんな今日までお疲れ様。どうだった?」


「すっごく疲れたよ」


 ネロが答えた。

 確かにハードな訓練ばかりだった。

 大の大人でも、根を上げるかもしれない訓練を、よくやり遂げてくれたと思っているよ。


「でもオレは楽しかったぜ! なぁ、ローラン」


「ああ、僕もそう思うよ。だけど最後に負け越したのは悔しかったかな」


「だったらまたやろうぜ! 別に学校戻ってからでもやれんだろ」


「そうだな。次は負けないよ」


 二人のやりとりを見て、俺は嬉しくて微笑んだ。

 つらい訓練を通して、彼らはお互いに高め合い、認め合うことができたようだ。

 この課外研修の目的には、彼らのレベルアップ以外にも、生徒同士で交友を深める意味合いも含んでいた。

 どうやらその目的も、ちゃんと達成できていたようだ。


「本当にお疲れ様。ここでの訓練は終了する。昼食後に山を降りるぞ」


「うぅ~ 五日間は長かったな~ あれ、でも確か帰り道って……」


 レノアは大きく身体を伸ばしながら、あることに気がついた。

 彼女が気付いたことを察した俺は、意地悪くニヤリと笑った。


「気付いたか。そう、帰り道はまたあの区間を通らないといけない」


 モッテル山脈における最高の難所。

 もっとも気象の荒い五〇〇メートルを、もう一度通らなくてはならない。

 それに気付き、行きの地獄を思い返した生徒たちは、ちょっぴり不安になったようだ。


「みんなよく聞いてくれ。帰りは全員、飛行魔術を使って下ってもらう。もちろんあの区間も含めてだ。これを最終試験として、お前たちがどれくらい成長したか見定めさせてもらうぞ」


 ルールは訓練と同じだ。

 一度でも地面についたらやり直しとする。

 その代わり、飛行魔術以外も使用して構わないと説明した。

 目標は二時間以内にふもとまで戻ること。


「何かあったときは、俺が助けるから安心して進め。臆することなく、全力で下ることを考えるんだぞ」


 もしものときに備え、彼らにはあらかじめ転移魔術のマーキングを施してある。

 さらに帰りの区間は、ユノアに精霊の力を使って監視してもらう予定だ。

 その辺りの説明は、昼食が済んでから伝えた。

 出発前に全員で掃除をして、荷物を担いで集合した。


「ここでの訓練をやり終えたんだ。お前たちなら絶対に出来る!」


 俺は彼らに自身を持てと伝えた。

 それに答えるように、彼らは凛々しく返事をした。

 最終試験の結果は、もはや言うまでもないだろう。

 

 彼らは無事にたどり着いた。

 それもなんと、目標を大きく上回るスピードで駆け抜けた。

 こうしてモッテル山脈での五日間は、とても有意義な時間となって終了した。

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