58.とにかく慣れよう

 訓練開始から時間は進み、夕日が西に沈みかけていた。

 その頃にはもう、生徒たちは自由に空を飛べるようになっていた。

 俺のオリジナル術式だからというのもあるが、やはりAクラスの生徒たちは優秀だ。

 空を飛ぶ感覚さえ掴めば、簡単にイメージできていたし、細かい調整も難なくこなしてみせた。

 彼らが優秀な理由は、単に優れたセンスをもっているからでない。

 端的に言えば、好奇心が誰よりも強いからだ。


「すっごいねぇ~ イズキ君ってばあんなに高くまで飛んでるよ」


「ネロ、違うよ。あれは単に馬鹿だから。馬鹿と煙は高いところが好きって言うでしょ」


「あぁ~ なるほどね~」


「おいミズキ聞こえてんぞ!」


 生徒たちは楽しそうに空を飛んでいた。

 彼らは当たり前のようにやっているけど、実は簡単にできることじゃない。

 数時間前まで飛べなかったのに、いきなり空を飛ぶなんて普通は怖いだろ?

 なんせ一歩間違えば真っ逆さま、彼の世行きだってありえるからな。

 それでも彼らは恐怖なんて気にしないかのように飛び回っている。

 恐怖よりも好奇心や歓喜のほうが勝っているからだ。


「優れた魔術師に求められるのは、センスよりも恐れず挑戦する姿勢。優れた魔術師になりたいなら、好奇心を失ってはいけない。その辺りはどうやら問題なさそうだな」


「そうみたいだね」


 俺とユノアは飛び回る彼らをみてそう感じた。

 そして一旦集合させ、明日からの訓練について説明することにした。


「明日からは朝食後、飛行魔術を使って頂上まで登ってもらうぞ」


「ってことは早朝の登山はなしですか?」


「いいや、それはちゃんと継続するぞ」


 質問したレノアは嫌そうな顔をした。

 あれはあれで体力向上のために必要なメニューだからな。

 いま伝えたメニューは、飛行魔術に慣れるために行ってもらう。


「飛行魔術で頂上までいって、一瞬だけ足をつけて戻ってきてもらうぞ。足をついていいのは頂上の一瞬だけ。途中でついたら最初からやり直しにするから」


 レノアはさらに嫌そうな顔を見せた。


「そんな顔してると、二往復にするけど?」


「うえっ、勘弁してくださいよクロ先生~」


「疲れるだろうが大切なことなんだよ。次のステップに進むためには、もっと飛行に身体を慣れさせないといけないからな」


「次のステップ?」


「そうだ。詳しくはまた説明するけど、飛行魔術を使いながら他のことも出来るようにする訓練かな。いわゆる二重課題ってやつだよ。ただ飛べるだけじゃ移動にしか使えないからな」


「どんなことするんですか?」


「それは明日のお楽しみってことで」


「えぇ~」


「その前にちゃんと頂上までたどり着けなきゃな」


 この日の授業はここまでで終了した。

 一日中飛び回っていた彼らは、うとうとしながら夕食を食べていた。

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