57.空を飛ぼう②

 人間は空を飛べない生き物だ。

 それはどうしてだろうか?


「ラミリス、お前はどうしてだと思う?」


「えっ、ワタシですか? えっと、羽とか翼を持っていないから……とか」


「あーそうだな。確かに、飛べる生き物には翼がある。逆に言えば、人間にも翼があれば飛べるってことだ。現に魔術師の中には、翼に似た形状のもの生み出して飛んでたやつもいたな」


 物質を生成する魔術を使って、背中に翼を生やして飛ぶことは可能だ。

 だけど俺的にはあまりおススメできないな。

 翼とか羽は、本来人間が持っていない部位だ。だから使い方もわからなくて、慣れるのに相当時間がかかってしまう。


「じゃあもう一つ質問だ。人間を含む翼を持たない生き物が、空を飛べない根本的な理由は何だと思う?」


 俺はゴルドを指名した。


「根本的な理由……あっ、わかった! 重力があるからだ!」


「そう正解だ! 重力、つまり重さがあるから、重いから飛べないんだよ。軽い葉っぱとかなんて、緩い風で簡単に飛べるだろ? だからこうやって――」


 俺は両目を閉じて術式を展開した。

 一瞬白い光が身体を包んだ後、両足が地面からゆっくりと離れていく。


「重力を制御できれば、浮くぐらい簡単にできるぞ」


「す、すげぇ! 浮いてるぞ!」


「まずはこれができる様になってもらうかな」


「オイラにもできるかな?」


「できるさ。なんせこの場所は、身体を浮かせるにはもってこいの環境だからな」


「どいうことだ?」


 ゴルドは首を傾げた。

 俺は浮遊魔術を解除して地面に着地、そのまま説明を続けた。


「重力っていうのはな。高い場所に行くほど弱まる傾向があるんだよ。だからここは、地上よりも重力の影響が弱まっている。重力制御のイメージを明確にするなら最適な場所なんだよ。あとで室内に体重計があるから乗ってみな」


「でも先生、それって浮いてるだけですよね?」


「そうだよ。レノアの言う通り、これはただ浮いてるだけだ。だが、浮くイメージは飛ぶイメージに繋げやすい。特にこのモッテル山脈は、アルステイン王国で一番高い山だ。つまり、この国で一番天に近い場所になる。この大空に浮かぶことができれば、飛ぶイメージも掴みやすい」


 重力を制御して浮遊することがステップ一なら、それを通じて飛ぶ感覚を知り、イメージを明確化することがステップ二ということだ。

 そして、最後のステップ三――


「いよいよ飛行魔術の実践だ。飛行魔術には、大きく分けて二つの系統がある」


 俺は説明しながら飛行魔術を展開した。

 身体に風を纏わせて、浮き上がった身体を制御している。


「一つはこうやって、浮かせた身体を動かすタイプ。そんでもう一つが――」


 一旦地面に足を付けてから、力いっぱいに地面を蹴って跳びあがった。

 そのまま空中を蹴るように移動していく。


「ほっと! こんな感じに、空気を蹴って移動するタイプだな」


 どちらも空中を移動する魔術だ。

 この二つのタイプには、それぞれ長所と短所がある。

 一つ目の方法では、空中を自由に舞うことができ、細かい動きも可能となる。

 その反面、常に魔力が消費され、速度が上がりにくいという欠点がある。

 対して二つ目の方法は、空を蹴る一瞬だけした魔力を消費しないから魔力効率は良い。

 また、元から身体能力が高いものなら、蹴る力を上げるだけで速度を上昇させることも可能だ。

 ただし直線的な軌道でしか移動できないため、空中を自由に舞うことはできない。


「とりあえずみんなには、この両方を習得してもらう。あとは使いやすい方をメインで使っていけば良い。それぞれの欠点も、他の魔術と併用すれば補えたりもするからな」


 例えば一つ目の方法の欠点は、炎の噴射を推進力に用いることで速度を補ったり。

 二つ目の方法なら、足だけじゃなくて両手も使って、より立体的に動いて細かく軌道を変更したり。

 あとは結局、魔術師それぞれのセンス次第だ。


「術式は俺のオリジナルを教えるよ。世に出回ってるのは無駄が多すぎるからな。さぁそろそろ始めようか。今日中に習得して、明日から使いまくってもらうからさ」


 それから夕方まで、みっちり訓練が続いた。

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