55.最初の夜

 過酷な登山を終え、なんとか夕暮れに目的地へ到着した。

 本当にギリギリだったようで、到着してすぐにオレンジ色の光が消えていき、あたり一面が真っ暗になった。

 夜空に輝く星々が、いつもより近くに感じられるこの場所に、王国が管理している山荘があった。

 木製の建物で、コテージ風の小洒落た見た目をしている。

 この建物に使われているのは特殊な木材で、急激な環境変化にも対応できる素材らしい。

 中は二階建てで広々していて、四人部屋が六つ並んでいた。


「先に部屋割り決めちゃおうか」


 Aクラスは男子七人、女子五人の計十二人。

 もちろん男女別として、それぞれ二部屋ずつ使えば良いだろう。

 とりあえず、適当に分かれてもらった。


「ローラン、トール、ルークで一部屋、残りの男子でもう一部屋か」


「こっちはレノアとミシェルで一部屋、他の三人で一部屋だね」


 俺とユノアで部屋割りをメモに記載した。

 その作業中に、レノアがニヤニヤしながらこう尋ねてきた。


「先生たちは一緒の部屋なんですかぁ?」


「当たり前だろ」


「あれ……」


「なんだその顔、変な期待してたんじゃないだろうな」


「えぇ~ もっと照れてる先生が見たかったのに」


「これくらいで照れるか。もともと一緒に住んでるんだぞ。あんまり大人をからかうな」


 俺はレノアのおでこにピンッ指を当てた。


「うっ、それでクロ先生、このあとはどうするんですか?」


「今日はもう終わりだ。訓練をつけてやってもいいが、もうそんなテンションじゃないだろ」


 生徒たちは首をそろえて「うんうん」と頷いた。

 慣れない登山で相当疲れているようだ。


「それじゃ一時間後に夕食にするから、それまでは部屋で休んでてくれ」


「やったー!」


 ネロは嬉しそうに飛び跳ねた。

 案外まだ体力が残っている生徒もいるみたいだな。

 ただ疲れているのは間違いないようで、みんなすぐに部屋へ入っていった。

 ロビーには俺とユノアが残っている。


「俺たちも始めるか」


「うん」


 一時間後――


「うわぁ~ すっごいご馳走だぁ!」


 休憩を終えた生徒たちが目にしたのは、大きな机いっぱいに並べられた料理の数々だった。

 中には見慣れない品目もあるようで、ネロとゴルドが真っ先に駆け寄って眺めている。


「オイラこんなご馳走初めて見たぞ!」


「そっか。それは準備したかいがあるよ」


「えぇ! もしかしてこれ、クロ先生が作ったんですか?」


「驚きすぎだろ、ネロ。まぁ俺一人じゃなくて、俺とユノアで作ったんだけどな」


「ボクたちで頑張ったんだよ。疲れてるみんなには、たくさん食べてほしかったからね」


 それから生徒たちを座らせ、みんなで手を合わせてから食べ始めた。

 かなりお腹が減っていたようだ。

 普段小食だというミシェルも、食べる手が止まらない。


「レノア、味はどうだ?」


「美味しいですよ! ユノア先生はともかく、クロ先生も料理できたなんて意外でした」


「お前まで言うか。まぁ俺も旅人だったからさ。料理くらいできなきゃやっていけなかったんだよ」


「ボクも同じ理由だよ。旅の中でいろんな食材にも触れたから、大体の料理は作れるようになったんだ」


 あの長い旅では、力以外にもたくさんの技術や経験を手に入れた。

 そういう全部が合わさって、今の自分が作られている。そういう話を生徒たちにしてみたら、いつか自分たちも旅をしてみたいなんて言い出した。

 みんなで楽しく食卓を囲むのは、とても楽しいものだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます