53.山登りは大変です

 課外研修初日。

 楽しい登山がスタートした。


「そう思ってるの、たぶん君だけだよ」


 なんてツッコミをユノアから入れられた。

 まぁそれくらい見ればわかるよ。

 みんな顔が笑ってないからね。

 だけど俺まで怖い顔してちゃ駄目だし、せめてテンションくらいあげていこうと思った。


 目指すは標高二〇〇〇メートルを超えた場所にあるキャンプ地だ。

 そこには宿泊施設があって、一年を通して比較的気候も穏やからしい。

 登山には一応簡単なルールを設けた。

 以前行った鬼ごっこと同じで、強化系の魔術以外は使用しないこと、それだけだ。


「まっ、登るくらいなら楽勝だろ!」


 などと息巻いていたイズキだったが、すぐに現実を思い知ることになる。

 登山を開始したのは早朝六時、それから二時間が経過して、現在は標高五〇〇メートルの地点に来ている。


「はぁ……はぁ……キツい」


「おいおいどうしたぁ。もうバテたのか」


 イズキは疲れて膝に手を置いてしまっていた。

 疲れているのは彼だけではないようだ。

 全員の顔から疲労が感じ取れる。

 もちろん俺とユノアはケロッとしているのだが。


「くそっ、ただ登ってるだけなのに……こんなキツいのかよ」


「当たり前だろ。これだけ道がガタガタで、傾斜まで付いてるんだぞ。加えて登れば登るほど、どんどん空気が薄くなっていく。山をなめるなよ」


 しかしまぁ、初めてにして高ペースだ。

 もっと整備された山なら遅いくらいだろうけど、俺はあえて険しい道を選んで進んでるからな。

 ただ、このペースだと夕暮れまでに到着できるか微妙だな。

 せめて正午までに、あの地点まで登れればいいんだが……。


「ほら、足を止めるなよ」


「うえ~ あたしもう歩けないよぉ~ クロ先生おぶってぇ~」


「別にいいけど、そのまま下に全力ダッシュするぞ」


「それは嫌です!」


「だったら歩くしないな。ネロ」


「うぅ~ クロ先生の鬼ぃ~」


「残念だったな。俺は悪魔だよ」


 半分だけなんだけどな。

 そんなこんなで、へばる生徒たちに鞭を打ちながら登っていった。

 登山開始から六時間、ちょうど正午にようやく標高一五〇〇メートル手前まで到達した。


「うん、良いペースだな」


「よっしゃ! なんか慣れてきたぜ!」


 いつの間にか、イズキに元気が戻っていた。

 彼だけでなく全員が、過酷な環境に徐々に慣れ始めてきたのだ。


「残り五〇〇メートルだろ? これなら楽勝だぜ!」


「それはどうかな」


 どうやら彼は知らないらしいな。

 この山がどういう環境なのか。


「あれ……なんだか雲行きが」


 変化に気付いたのはユーリだった。

 先ほどまで安定していた天候が、急激にあやしくなっていく。

 そうした光景を目の当たりにして、生徒たちの顔色が、どんどん悪くなっていった。

 どうやら皆、気付き始めたようだ。


「気を引き締めろよ皆。この先の五〇〇メートルは、この山でもっとも険しい区間だぞ」


 モッテル山脈は、途中までその牙を隠していた。

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