52.山に来ました

 モッテル山脈。

 アルステイン王国が管理する山の中で、最高の高さを誇る山である。

 その標高は富士山に並ぶ三八〇〇メートル。天候は一年を通して不安定で、いつ嵐に見舞われるかわからない。


「みんな準備は出来てるな~」


 Aクラスの生徒たちを、学校の校庭に集めた。

 彼らには今日から、四泊五日の課外研修へ行ってもらう。

 先日のホームルームで、海と山、どちらに行きたいかという話になった。

 その結果、強引に両方へ行くことになり、最初の研修先に選ばれたのが、モッテル山脈だった。

 生徒たちには、四泊分の衣類、生活に必要な物を準備させた。五日分ともなるとそれなりに大荷物で、みんな大きなリュックサックを背負っている。


「クロ先生!」


「何だ? ネロ」


「モッテル山脈までってどうやっていくの? ここからって結構遠かったよね?」


「確か、馬車でも一日かかったはずですね」


 トールが言ったように、学校からモッテル山脈までは遠かった。

 実際に昨日ダッシュで行ってみたけど、一時間弱かかったよ。

 しかし問題はない。


「大丈夫だ。ちゃんと準備してあるから」


「準備?」


 ネロは首をかしげた。

 ここでユノアも合流して、Aクラスの全員が揃った。


「よし、それじゃ、みんなで手を繋いで円を作ってもらえるか」


「円? どうしてそんなこと」


「いいからいいから! 俺を囲むように作ってくれ。ユノアもそっちに混ざって」


「うん」


 理由を知っているユノアが、要領を得ない生徒たちを誘導していった。

 そして十二人の生徒とユノアで円が出来上がり、俺はその中心に立った。


「さっ、それじゃ行きますか!」


「行くって――」


 パンッ!

 

 俺は手を叩いた。

 その前、最後に聞こえたのはゴルドの声だった。

 彼の言葉は最後まで聞こえず、気が付けば全員見知らぬ場所に立っていた。


「はい到着」


「えっちょっ……どこですかここ?」


 突然変わった景色に動揺しているようだ。

 疑問を口にしたレノアに、俺は軽い感じで答えた。


「モッテル山脈のふもとだよ?」


「はっ?」


「えっ、だから行くぞって行っただろ」


「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」

 

 目の前に聳え立った山に跳ね返って、生徒たちの声が山彦となって響き渡った。


「どど、どやったんですか!?」


「うおっ、近いぞレノア! ちょっと離れてくれ」


「あっああ、すみません。興奮しちゃってつい……」


「まぁ落ち着けよ。というかそんなに気になるのか?」


 生徒たちに視線を送ると、全員が満場一致で気になると反応した。

 仕方がないので解説することにした。


「転移魔術を使っただけだよ」


「転移って、あの転移ですか?」


「いやいやレノア、他にどの転移があるんだよ。まぁ普通の転移とはちょっと違うんだけどな」


「先ほど皆さんと手を繋いだことと関係あるのでしょうか?」


「その通りだよ、アイーシャ。通常の転移魔術だと、これだけ大人数は一気に運べないんだ。だから皆には術式の一部になってもらった。俺を起点にして円を描くことで、みんなを一つの個体として飛ばしたんだよ」


「個体? 一つに?」


「まぁあんな方法じゃなくても、大人数を飛ばすことはできるんだけどな。あーやってもらったほうが楽――……」


 あぁー……レノアの表情、あれは理解できてないな。

 主席の彼女が理解できないってことは、他の生徒たちも同じだろう。


「まぁ今は理解できなくても良いよ。この先も授業を受け続けてくれたら、必ず解るようになるからさ。だけどその前に、今は研修の拠点に向かおうか」


「えっ、ここじゃないんですか?」


「違うよミズキ。拠点はこの山を登った先、標高二〇〇〇メートルを超えた場所にある」


「二〇〇〇……」


「まっ、今みたいに移動すればすぐだよな!」


「何言ってるんだ、イズキ。ここからは登るんだよ」


「へっ?」


「へっ? じゃないだろ。何のためにそんな格好で来てもらったと思ってるんだ」


 生徒たちには山を登れる服装で来てもらっていた。

 初めから、ふもとから拠点までは徒歩で行くつもりだったよ。


「それじゃ、張り切って行こー!」


 テンションをあげてそう言った。

 俺は気付かなかったけど、このときに笑っていたのはユノアだけだったらしい。

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