47.敵の名は

 休校明け最初の授業はいつも通り行われた。

 いや、いつも通りという言い方は正しくないか。

 いつも以上に画期的で、かつ有意義な授業が行われたのだ。

 先日の一件を経て、軽蔑されるかと思われた俺は、逆生徒たちから尊敬の眼差しで見られるようになった。

 あこがれの対象になった。

 とても喜ばしいことだ、この感情を誰かに伝えない。

 ユノアは言わなくてもわかるだろうし、彼女以外にも伝えたいそう思った。


「そうかそうか、それはとても良いことだな」


 そう思っていたとき、陛下からの呼び出しがあった。

 俺は意気揚々と王城へ向かい、約束の時間より三十分前に到着して、陛下にいろいろと話した。

 陛下はそれを楽しそうに聞いてくれた。

 あとからユノアも合流して、三人で会議室へ向かった。


「おお! 君がクロード君か!」


「あっはい、そうですが」


 会議室の扉を開けると、見知らぬ人たちが待ち構えていた。

 そして俺が来ることを待ちわびていた。


「先日は本当にありがとう。君のおかげで、この国は救われたよ」


 一人の男性が、俺の手を取り感謝を口にした。

 彼らはこの国の重鎮たち、陛下を支える大臣たちだったのだ。

 今この会議室には、国中のお偉いさんが集められていた。

 そこになぜか、俺とユノアも放り込まれたのだ。


「みな席についてくれ」


 陛下がそう言うと、ゾロゾロとそれぞれの席に向かった。

 俺とユノアは陛下に案内され、隣通しの席に座った。

 まだよくわからない。

 なぜ呼ばれたのだろうか。

 これからなにが始まるのだろうか。


「ねぇ、これってどういう状況?」


「さぁ、俺にもわからないよ」


 ユノアが小声で尋ねてきた。

 どうやら彼女も知らないらしい。


「さて、急な呼び出しに応じてもらい感謝する。今日集まってもらった理由は他でもない。先日捕らえたリベレーターの構成員から、有力な情報をいくつか得たのだ。それを伝えたい」


 あーそういうことか。

 だから俺とユノアも呼ばれたんだな。


「ついに奴らの尻尾が掴めたのですな!」


「うむ……そうだな。確かに尻尾は掴んだ」


 そう言っている陛下の顔は、とても喜んでいるようには見えなかった。

 重鎮たちにその表情から察したのは、急に静かになってしまう。


「みな心して聞いてくれ。わかったことは大きく三つある。まず一つは、構成員の数……総勢二八万人だ」


「に、二十八万?」


 重鎮の一人が飛び上がるように声を上げた。

 二十八万といえば、この国の総人口と大差ない数だ。

 それだけの人数を確保しているのか。


「二つ目は、彼らの頭目についてだ。名はシェフィールとうらしい。そして、かの英雄と同等の力を持っているという噂は、本当かもしれないのだ」


 陛下はおもむろに俺へ目を向けた。

 この場には、俺がその英雄だと知らない者もいる。だから、このとき向けられた視線には、若干動揺した。


「クロード君、我々を襲撃した中に、魔物が混じっていたことは覚えているか?」


「えっ、えぇまぁ、あいつらの使い魔ですよね」


 俺がそう言うと、陛下は首を横に振った。


「どうやら違ったらしい」


「どういうことです? 実は魔物じゃなかったとかですか?」


「いいえ、あれは魔物だった。違ったのは我々の認識だ。あの魔物は彼らの使い魔ではなく、シェフィールが生み出した魔物だったのだ」


 生み出した?

 魔物を生み出しただって?

 召喚したわけでも、洗脳したわけでもなく、新たに生み出したっていうのか!

 そんなことはありえない。

 少なくとも聞いたことがない。

 俺の知る限り、どんな魔術でも、魔物を生み出すなんて不可能だったはずだ。


「ねぇ、これって……」


「わかってるよ、ユノア。もし本当なら、そいつは魔人以上に異常な存在だ」


 魔物を自由に生み出せる。

 そんな存在がいるのなら、魔人よりも性質が悪い。

 間違いなく世界の敵になる。


「最後に三つ目、これがもっとも大きな情報であり、最も知りたくなかった情報だ」


「陛下?」


 二つ目の情報以上に重い内容だっていうのか?

 一体どんな事実なんだよ。


「彼らを支援している国がある。その国の名は――ルグドニア王国だ」


「なっ……」


 その場の全員が絶句した。

 俺はというと、国という単語を聞いた時点で、なんとなく察してしまった。

 かの王国は、人間主義を代表する国だ。

 それがリベレーターと繋がっていても、さして不思議には思えない。

 ただし――


「あの大国が敵に……」


「そんなことがあっていいのか!」


 到底受け入れられる事実ではなかった。

 今回の一件で、俺たちは確かに敵の尻尾を掴んだ。

 しかし、掴んだしっぽは予想以上に大きくて、恐ろしいものだったのだ。

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