46.感謝とあこがれ

 臨時休校三日間が過ぎた。

 俺のその間、しおれた花のように落ち込んでいた。

 そうして向かえた今日という日。


「はぁ~ 憂鬱だ……」


 俺はまだしおれていた。


「もう、いつまで落ち込んでるの? シャキッとしなくちゃだめでしょ? 先生なんだから」


「でもさ~ 会って軽蔑されてたらどうしよう」


「情けないなぁ~ 魔神を倒したときの折れない心はどこにいったの? あんまり情けないと、嫌いになっちゃうよ?」


 ユノアの言葉が俺の弱った心に突き刺さった。

 今にも身体が砂のように舞って飛んでいきそうな気分だ。


「ご、ごめんごめん! 冗談だから! ほら、もう出ないと遅刻するよ」


「お、おう……」


 俺は彼女に手を引かれ、重い身体をなんとか起こして家を出た。

 学校に到着した俺たちは、最初に職員室へ向かった。

 落ち込んだまま部屋に入ると、教員陣が総出で出迎えてくれた。


「本当のありがとう。君のおかげで助かったよ」


 平たく言うと、とても感謝された。

 中には囚われていた人もいて、助けられたことに感謝していると言っていた。

 彼らの反応を見て、俺の気分は少しだけ晴れた。

 もしかしたら、生徒たちも同じような反応をするのではないか。

 わずかにそう思える程度には、気を確かに持つことができた。


「ふぅ~ やっぱり緊張する」


 それからAクラスの前までやってきた。

 なんとか持ち直した心も、クラスの前までくると不安で仕方がなくなる。

 まったく、ユノアの言うとおりだよ。

 俺という男は、一体いつからこんなにも弱くなったんだ。


「ほら、ちゃんと笑って」


「ユノア」


 彼女にポンと背中を押された。

 それでようやく決心がつき、教室の扉に手をかけた。

 何度もあけてきた扉が、今までで一番重く感じられた。

 それでも意を決して開いた。


「お、おはようみんな」


「おはようございます! クロ先生! ユノア先生!」


 重い扉の先には、普段通りの生徒たちが待っていた。

 元気いっぱいで最初に挨拶をしたのはレノアだった。それに続いて他の生徒たちも挨拶を口にした。

 それから教卓の方へなだれる様に近寄ってきた。


「クロ先生!」


 全員の動きが一つにそろった。

 そして――


「「助けてくれて、ありがとうございました!!」」


 精一杯の感謝を、力いっぱいの声で伝えてきた。


「先生すっごくカッコよかったよ! あんなに強いなんてビックリしちゃった!」


「あ、ありがとうございました。私も、その……格好良いと」


「本当にありがとうございました。この国の代表として、深く感謝します」


「ぼくからも感謝を」


「オイラもいつか、あんな風に強くなりたいな!」


「なぁ先生! あの野郎を倒した魔術さ! オレにも教えてくれよ!」


「あんたに出来るわけないでしょ。馬鹿イズキ」


「あの時の先生……いつもと違っていましたね」


「あっはは~ 先生なんか元気ないねぇ~ あたしが元気の出る方法教えてあげるよ!」


「あらあら、今日もみんな仲良しね。こうして仲良くいられるのも、全部クロ先生のおかげだわ」


「いやしかし、あれほどの魔術は初めて見た。ワタシもいつか……」


 生徒たちは気の抜けたように接してきた。

 普段通りに、というかいつもよりも好意的に接してきた。

 無理をしているようには見えない。

 全員が心から感謝してるようだった。


「なんでお前ら、怖くなかったのか?」


「怖かったですよ。捕らえられたときは、本当に怖かったです」


「ユーリ」


「でも先生が来てくれて。悪い人をやっつけてくれて。あの時は混乱しててわからなかったけど、後になって嬉しいと感じたんです。そしていつか、先生みたいに強くなりたいって」


 ユーリの言葉に、他の生徒たちが頷いていた。

 彼らは恐怖していなかった。

 助けられたことに感謝し、垣間見た強さに憧れを抱いていた。


「だから先生、これからもよろしくお願いします!」

 

 Aクラス十二人が、そろって頭を下げてきた。


「お前ら……」


「ほらね? ボクの言った通りだろ」


「そうだな。俺からもありがとう」


 この日、新しく知ったことがある。

 それは生徒たちが、俺が思っているより強い心を持っている、ということだ。

 彼らの期待に応えられるよう、これからも頑張っていこう。

 そう思えた瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます