45.いろいろ終わった

 自らの影が絡みつき、身動きをとれなくなった男はもがき苦しんでいた。

 口を塞がれると息すらできない。視界は真っ暗にとざされ、耳から音も通らない。

 自分という存在以外知覚できない。

 男は苦しみながら、絶望しながら気絶した。


「やれやれ」


 俺は広げた影を元に戻した。

 男を覆っていた影も消え、失神して泡を吹く情けない姿が露見した。

 それを確認した後、パチンと指を鳴らし、ユノアたちを拘束している魔道具を破壊した。

 そしてすぐに駆け寄った。


「ユノア」


 彼女の腫れた頬にそっと触れる。

 同時に傷を癒し、触れたあとには腫れも傷もなくなっていた。


「ごめんな。遅くなって」


「これくらい大丈夫だよ。まったく心配しすぎだなぁ君は……だけど嬉しいよ」


 甘い空気が流れた。

 このときの俺は、周囲に生徒たちがいることをすっかり忘れていた。

 まさしく彼女しか見えていなかった。

 その彼女が、俺を現実に戻す一言を口にした。


「それはそうとやりすぎだよ。生徒たちが見てるんだから」


「あっ……」


 我に返ったことで、彼女の後ろにいる生徒たちがようやく視界に入った。

 さっきまでの俺は冷静だった。ただ残念なことに、冷静に戦っていただけで、それ以外に対しては全然冷静じゃなかったようだ。

 途中から生徒たちがいることを忘れていた。


「す、すまん皆! 怖い思いさせちゃって……」


 必死に挽回しようとしたが、生徒たちはずっと無言で話も聞いてくれなかった。

 怒っているとか怯えている感じてはない。

 だけどこれは――


「嫌われちゃったかなぁ~」


 襲撃から数時間後、事後処理を行って帰宅した俺は、リビングの机に突っ伏していた。

 後日談、というより今回のオチを話すと、襲撃したリベレーターたちは全員牢へ入れられた。

 陛下のほうを襲撃したやつらも、同じく牢へ入った。

 これから尋問やら捜索やらが始まるらしい。

 一時的に拘束されていた生徒たちのメディカルチェックも行われた。

 ほとんどが放心状態だったらしいけど、外傷等は見られなかったらしいし、とりあえず安心だ。

 しかし精神的に疲弊していることは明らか。

 大事をとって三日間は臨時休校となった。


「本当にごめんね。ボクがもっとしっかりしてれば」


「だから謝るなって。別にお前の所為じゃないだろ」


「そうなんだけど……」


「良いんだってもう。お前の力は俺と違って、融通の利くタイプじゃない。そうじゃなくても、お前が動けなかったってことは、どうせまた寝てたんだろ? あいつはさ」


「うん、まぁ……そうだね」


「やっぱりか。まったく、本当に融通の利かないやつだよ」


 彼女は精霊王シルフと契約していた。

 その力を使えば、あの程度の敵に遅れをとるわけがない。たとえ全員が人質にとられていたとしても、全力の彼女には関係なかった。

 しかし残念なことに、実際はそう上手くいかない。

 精霊王の力を行使するには、シルフ自身からの協力が必要だ。そして精霊王というやつは気まぐれで、常に力を貸してくれるわけじゃない。

 命の危機、もしくは世界の危機であれば別だが、それ以外は気まぐれもいいところだ。

 旅の途中も、急な戦闘とかには対応できなかったりして、何度か危ない場面もあった。


「あんまり彼女を責めないでよ。今回はたぶん、君がきてくれるから安心だと思ったんだよ」


「そう思ったのはお前だろ?」


「ボクと彼女は一つなんだ。ボクがそう感じれば、その感情は彼女に伝わるんだよ。知ってるでしょ?」


「まぁそうなんだけど」


 その所為でユノアが痛い目にあったと思うと、どうにも納得できない自分がいた。

 それに加えてもう一つ、俺を憂鬱な気分にする問題が生まれた。


「というか三日後だよ。どんな顔して生徒たちに会えばいいんだ?」


「普段通りでいいと思うよ」


「いやいや無理だろ。だってめちゃくちゃにやっちゃったんだぞ。絶対怖がられて、そんで嫌われてるかも」


「大丈夫だと思うけどなぁ」


「根拠は?」


「なんとかなく」


 いつも通り、根拠なしの自信だった。

 それから三日間、俺は悶々と悩みを抱えながら生活した。

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