44.魔術王の眼②

 影の攻撃が俺に向かって放たれた。

 まっすぐ、とてもまっすぐに向かってきた。

 しかし俺は何もしない。する必要が無い。

 なぜなら彼の魔術はもう俺には当たらないから。


「曲がった!?」


 影の攻撃は直前で方向を変えた。

 それに驚いた男だったが、さらに驚く事態に直面する。


「ぐっ……」


 俺を逸れた攻撃は、なんと術者である自分に帰ってきたのだ。


「な、なにが……」


「もうその魔術は正常に機能しない」


「なにを言って――」


「わからないならもう一度試してみると良い。なんど唱えても、なんど狙っても、その魔術は自分に帰ってくるぞ」


 半信半疑の男。

 彼は俺の言葉に誘導され、もう一度俺を攻撃した。

 再びまっすぐ伸びる影だが、言葉通り俺の手前で逸れていく。

 ユーターンして術者の方へ戻っていく。

 急いで防御体制をとった男だったが、戻ってきた攻撃は再度、サイドに逸れていく。


「ぐおっ……」


「うっ……」


 影の攻撃は、術者である男の両隣に立っていた仲間に直撃したのだ。


「お、お前ら!」


「おっとすまない。今度はそっちへいったらしいな」


「てめぇ……なにしやがった!」


 男は疑問を叫んだ。

 自分の魔術になにかが起こった。

 そのなにかはわからないが、目の前にいる俺の仕業だろうと感じた。

 直感的にそう感じた。

 いや、そうとしか考えられなかった。

 方法も内容も一切わからないが、そうとしか思えなかった。

 焦り怒り興味を持った。


「書き換えた」


「はぁ?」


「術式の一部を書き換えたのさ。一度目は自分に帰るように、二度目は隣の二人に向かうようにね」


「なっ……そ、そんなこと出来るわけねぇだろ! ありえねぇ……ありえるかよ!!」


「そう思うならそれで良い。もとより理解なんて求めてない。ただまぁ、目の前の現実くらい直視したほうがいいぞ」


 なんだ……あの眼――


 男は見た。

 俺の瞳に光る赤い八芒星――【魔術王の眼】。

 この眼は、あらゆる魔術を読み解き干渉することが出来る。

 干渉、つまり好き勝手に編集することが出来る。

 この眼を使えば、さっきのように相手の魔術の効果を変更することも、術式そのものを破壊することも可能だ。

 この眼に読み解けない魔術はない。

 かの魔神の魔術すら封じたのだから。


「ふっ……さっきも言ったが、弱い魔術だなそれ」


「くっ……」


「攻撃範囲、威力、速度……どれをとっても秀でた部分がない。オリジナルというには、お粗末な完成度だ」


「……」


「なんだ、言い返す言葉すらないのか? 情けない奴だな。じゃあ先生して俺がレクチャーしてやろう。俺だったらこう使う」


 この眼は相手の魔術を読み解ける。

 それによって初見の魔術すら、自身のものに出来てしまう。

 改良を加え、さらに完成度の高い魔術へと進化させる。


「まず攻撃範囲だが、影を操る魔術なんだろ? だったら影そのものを広げればいい」


 俺は自分の影を広げた。

 教室全体の床を覆うように、他者の影をとりこむように。


「同時にこれで速度も補える。あとは威力だが、これはもっと単純だ。数を増やせばいいんだから」


「なっ、なんだこれ……」


 男の足元から、無数の黒い手が出現した。

 それらが身体をうねり、掴み、拘束していく。

 八本ではとどまらない、十、二十、影の手はさらに増えていく。

 男の全身を影で覆い尽くすまで――


「自分の魔術の可能性に殺されるんだ。魔術師としては本望だろう?」


「うっ……ぐぷっ……」


「光の届かない場所にいけ……永遠にな」

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