43.魔術王の眼①

 占領された教室に俺は帰ってきた。

 足元には気絶させた男がいて、目の前には三人の黒い外套を着た男たちが立っている。

 全員驚いている様子だが、一番真ん中に立っている男はすぐに顔色を変えた。


「てめぇ……一体どこから入ってきやがった!」


「どこから……。俺はここの教員だぞ? 正門から入るに決まってるだろ」


「ふざけてんじゃねぇぞ! 正門にも他の部屋にも、仲間が陣どってたはずだろうが!」


「あぁー、そいつらなら全員拘束したよ。あとはお前たちだけだから安心しろ」


「なっ……」


 軽く言い放った俺に、男は激しく同様を見せた。


 安心なんて無理だよなぁ。

 もちろん嫌味で言ってるわけなんだけど。

 さて、見た感じ真ん中のあいつがリーダー格か。


「てめぇ何者だ!」


「俺はクロード、このクラスの担任だよ」


「担任? おいちょっと待て、嘘つくんじゃねぇぞ! そいつは国王と一緒にいたはずだろ!」


「ああ、そうだぞ。ついさっきまで陛下と一緒にいた。だから急いで戻ってきたんじゃないか」


「あ、ありえねぇだろ! ここまでどれだけ離れてると思ってんだ!!」


「うるさい奴だな。そんなことより、みんなは無事なんだろうな?」


 男たちの後ろに、拘束された生徒たちが集められている。

 何人か男たちの影に隠れて見えない。

 そして一番安否を確認したい人物が見当たらない。


「ここだよ」


 キョロキョロ探す俺に気づいたのか、真ん中の男の後ろからユノアの声が聞こえた。

 彼女はこちらが見える位置に移動した。


「ユノア――……」


 そして俺は彼女を見た。

 見えてしまった。

 赤く腫れる頬を見てしまったのだ。

 その瞬間、俺の中で良くない感情が生み出された。

 それを良くないと理解していたけれど、生み出された感情は激流のように全身へ流れ、身体からあふれ出るほど膨れ上がってしまった。


「お前ら……ただで済むと思うなよ」


「っ――シャドーウィップ!」


 場か凍りつくほどの殺気。

 リーダー格の男は、のど元に刃を突きつけられたような錯覚を感じた。

 その影響で反射的に魔術を行使した。

 彼の足元の影がより濃くなり、そこから触手のように伸びた八本の刃が俺を襲った。

 対する俺は、無動作無詠唱で障壁を生み出す魔術を行使。

 八本の影の刃は障壁に阻まれ、リーダー格の男の周囲まで縮んで戻った。


「シャドーウィップ……知らない魔術だな。お前のオリジナルか?」


「て、てめぇ、立場わかってんのか!」


「もちろん、俺はとても冷静だ。それにしても、オリジナルなら随分粗末な術式だな」


「なんだとてめぇ……」


「事実を言ったまでだよ。その程度の魔術しか行使できないなんて、三流にもほどがあるね」


「なっ、なめんじゃねえぇぇぇぇぇぇ!」


 本当に俺は冷静だった。

 ユノアを傷つけられ、殺したいほど怒っているのも事実だが、ちゃんと理性は働いている。

 むしろ冷静じゃないのは彼の方だろう。

 魔術による攻撃を俺じゃなくて、人質にした彼女や生徒たちに向けていれば、もっと優勢に立ち回れたというのに……。

 俺の挑発に簡単にのって、その優勢を放棄してしまったのだ。


「哀れだな」

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