42.信じてるから

「ユノア?」


 陛下の護衛を続行する傍ら、不意のユノアの声が聞こえた。

 これは魔道具によるテレパスだ。

 つまり、なにあったということだろう。


(どうしたんだ?)


(実は――)


 ユノアから現状報告を受けた。

 どうやら襲撃はこちら側だけではなかったらしい。

 すぐにでも向かいたいところだが、外ではまだ戦闘が続いている。


(ユノア、そいつは二十分って言ったんだな?)


(うん)


(わかった。なら二十分以内にそっちへ戻る。それまでに、敵の情報を出来るだけ集めてくれ)


(うん……ごめんね)


(謝らなくていい。無茶はするなよ)


(うん。待ってるね)


 テレパスを終了した。

 俺の険しい表情を察してか、陛下がこう尋ねてきた。


「国でもなにかあったのだな」


「はい。学校が占拠されました。おそらくリベレーターで間違いないと思います」


「なんと……」


「詳しく説明している暇はありません。すぐに救援へ向かいます。でもその前に、こちらを片付けましょう」


 敵の魔術師と魔物はいまだ健在。

 護衛が戦っているが、彼らに任せていては時間がかかりすぎる。

 学校には転移魔術のマーキングが施してある。

 行こうと思えば、今すぐにだって行ける。


「三分で終わらせます」

 

 この時陛下は見た。

 俺の瞳に浮かんでいる赤い八芒星を――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 クロトとのテレパスが終わった後、ボクは彼らから情報を聞き出すため動いた。

 動けない身体の変わりに口を何十倍も動かした。


「なにが目的なの?」


「あぁ? なんだまたてめぇかよ」


 ボクが話しかけたのはリーダー格の男だ。

 さっきの会話でわかったけど、この男はたぶん、そんなに頭が良くない。


「ボクたちを攫って、なにをするつもりなんだ?」


「うるせぇやつだな。まぁいいぜ。どうせ暇してたしよぉ」


 ほら、だから簡単に口を開く。

 自分たちが優位に立っているという驕りからだろうけど、間抜けなことに違いはないね。

 

「てめぇらはただの人質だよ。この腐った国を粛清するためのなぁ」


「粛清? この国から他種族を追い出すつもり?」


「は? そんなぬるいことするわけねぇだろ! 人間以外の種族を殺させるんだよ!! この国にいる人間どもになぁ!」


「なっ……」


 背筋がぞわっとした。

 なんておぞましいことを考えているんだ。

 そんなこと許されるわけが無い。あっていいわけが無い。


「そ、そんなの無理だよ!」


 怯えながらネロが叫んだ。

 男は笑いながら彼女に向かって答えた。


「出来るんだよバーカ! そのために国王も攫ってる最中なんだからなぁ! 今頃国王以外は皆殺しにされてる頃だろうよぉ」


「そんな……確か向こうにはクロ先生も」


 レノアの顔が青ざめていく。

 他の生徒たちも同様に、クロトが殺されてしまったと錯覚した。

 身が振るえ、不安から冷や汗が流れ出している。

 そんな中、ボクだけは小さく笑った。


「あぁ? なんでわらってやがる」


「ごめんなさい。だってあなたたち、笑っちゃうくらい哀れだったから」


 パチンッ!


 激昂した男のビンタが、ボクの頬にとんできた。

 その衝撃で倒れこんでしまった。

 頬は腫れ、ジンジンと痛みがにじんでくる。


「立場をわきまえろよ。決めた……転移したらてめぇを一番にかわいがってやるよ」


「先生!」


「大丈夫だよ。みんな」


 倒れた身体を起こしながら、ボクは生徒たちを安心させるために微笑んだ。

 みんな……そんな顔しないで。

 ボクは大丈夫、みんなも大丈夫、彼も大丈夫。


「ボクは信じてるから」


 その瞬間、突然の爆発音がこだました。


「な、なんだ!」


「た、大変だ!」


 仲間の一人が扉を開けた入ってきた。

 顔中から汗を流しひどく焦っているようすがわかる。


「なにがあった!」


「男が、いきなり男が現れて、仲間がみんなやられちまった」


「なっ、どういうことだ!!」


「知るかよ! とにかく今こっちに――」


 男はしゃべっている途中で倒れこんだ。

 その男の後ろには、みなが良く知っている人物が立っていた。


 そう、ボクはいつだって信じているよ。


「彼を――」


 絶望の教室に、担任教師が戻ってきた。

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