37.休日の過ごし方

 王城から帰宅した後、ユノアに陛下からの依頼について伝えた。

 別に伝えたからどうだということはない。

 反対されることはないし、意見されるわけでもない。

 彼女はいつも通り穏やかに――


「わかった」


 そう一言だけ口にした。

 その後は二人で休日を楽しんだ。

 昼過ぎまでは家でのんびり過ごし、夕方は買い物に出かけた。

 

 この世界には、というよりこの国がある地域には四季がある。

 三ヶ月単位の厳密性は欠けているものの、春夏秋冬の順で巡っている。

 現在は春、冬の寒さはきっぱり薄れ、夏の訪れを感じさせる暑さがみられはじめた頃合だ。よって夏服がいる。

 俺とユノアは旅をしていた事情で、あまり服を持っていない。

 今日の買い物の主目的はそこにあった。

 

「初めてだね。こうして一緒に服を買いに行くなんて」


「そうだったか? 服くらいなら、旅の途中でも買ってたと思うけど」


「違うよ。普通におしゃれのために服を選ぶのがってこと。あの頃はほら、そういうのは抜きで選んでいたでしょ?」 


「あー、まぁそうだよな」


 いつどこで戦いが始まるかわからない。

 そういう旅をしていたから、身なりに気をかける余裕なんてなかった。

 彼女自身、個人的な事情でずっと男装をしていたわけだし。

 そう考えるとなるほど、確かに初めてなのだろう。

 こうして二人で、ただ服を買いにくるというのは。


「どれがいいんだろう」


「なぁ、せっかくだし、もっと女性らしい服も買ったらどうだ? もう男装する必要はないだろ」


「そうなんだけどね。もう慣れちゃったからなぁ~ どれを選べばいいのか全然わからないんだよ」


「そこまで悩まなくてもいいだろ。着てみたい服を買えば良い」


「う~ん……あっ、だったら君が選んでよ」


「俺が?」


「うん。君がボクに着てほしい服を選んでくれ。駄目かな?」


「別に構わないけど。俺に服選びのセンスなんて無いぞ」


「良いんだよ。ボクは君のためのボクでいたいから」


 恥ずかしさにもだえ苦しみそうな一言を、彼女は臆面も無く口にした。

 そこらへんの男よりよっぽど男らしい。

 彼女は好意を隠さない。だから俺も隠したくない。


「了解した。なら俺の服はユノアが選んでくれよ」


「うん。いいよ」


 それから二人で互いの服を選びあった。

 まるで成り立てほやほやのカップルのような、甘くて尊い時間を過ごしたのだ。

 いやまぁ、まるで……ではないか。

 

 服を選んだ後は夕食をとった。

 小洒落たお店に入るのは、初授業と同じくらい緊張した。

 まったくこの国に来てからというもの、ドキドキすることばかりだよ。


「楽しかったな」


「そうだね。とても楽しかったよ」


 楽しい時間を過ごした。

 とても穏やかで、有意義な時間だった。

 それを実感してかみ締めて、なんども思い浮かべながら帰宅した。

 

 だから気づけなかった。

 この時に俺たちを伺う、二種類の視線に――

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