34.ユーリ=フローレス

 ラミリスと真面目な話をして、なんだか妙な達成感を感じていた。

 先生として役目を果たせたような実感。優越感にも似ている。

 ただ間違えていけないのが、まだ面談は終わっていないということだ。

 個別面談最後の一人。

 精霊使いユーリ=フローレスが残っている。


「この面談もお前で最後だな。ユーリ」


「そうですね。皆とは色々と話せたんですか?」


「もちろん。それぞれ個性があって、聞きごたえのある話ばかりだったよ」


「個性……ですか」


「ユーリ?」


「あっ、すいません。大丈夫ですよ? 自分が地味なことに、今更コンプレックスなんて感じてませんから。ただ、羨ましいなとは思いますけど」


 成績、容姿、運動神経……個人を構成するあらゆる要素で、彼女は平均的な数値を叩き出している。

 一部を除けば、普通を体現したような存在。はっきり言って地味だ。

 しかしまぁ、除いた一部に彼女の個別性が詰まっている。


「みんなからすれば、ユーリの方が羨ましいって思われてると思うぞ」


「え、どうしてですか?」


「精霊使いだってことだよ。普通の人間には精霊の力は扱えない。そもそも見ることすらできないんだからな。精霊使いは特別なんだよ」


 かくいう俺も、以前までは精霊を見ることも感じることもできなかった。

 ただ最近は、【精霊眼】に類似する眼を手に入れたお陰で、力を使えないが見ることは出来ている。


「特別……ですか。そうですね。特別だと思います。だけど私は、その特別を無くしたいんです」


「無くしたい?」


「はい。私は将来研究者になって、誰でも精霊を見られるようにしたいと思っています」


「研究者か。確かにそれが叶えば凄いことだな。だけどいいのか?」


 誰でも精霊をみられるようになる。

 もしそうなれば、彼女は自分の持っている個性を失うことになる。

 他者より優れている部分を、自ら放棄するのと同じだ。


「小さい頃から精霊が見えました。でも、それが精霊だとはわかりませんでした。自分だけに見えている何かがある。それが怖くて周りの皆に相談しました。だけど信じてくれなくて、お父さんとお母さんも、最初は全然わかってくれませんでしたよ」


 ああ、そういうことか。

 精霊使いは特別な存在だ。

 しかしその特別も、精霊使いだから得られる特別なんだ。

 簡単に言うと、精霊を見ていると周囲が知らなければ、彼女はただの可笑しな子供でしかない。

 彼女の幼少時代は、そういう目で見られていたのだ。


「特別が必ずしも良いとは限らない。みんなと違うってことは、それだけ孤独だってこと……か」


「はい。だから変えたいと思いました。私以外にもいると思うんです。そういう風に悩んでいる人が」


「そうだな。きっといるよ」


 そういえば、以前にユノアも似たようなことを言っていたな。

 周りが特別扱いされるのは好きじゃないって。

 あの台詞には、きっと同じような感情が込められていたんだろう。


「もし研究をしたいなら、その時はユノアも頼ってみると良い。あいつもお前と同じ、特別を知ってる側だからな」


「はい。そうしたいと思ってました」


「そうか。だったら良い。俺も手伝えることがあったら言ってくれ」


「はい! これからよろしくお願いします」


 こうして、生徒達と過ごす濃密な時間が終わった。

 それぞれに苦悩を抱え、夢を抱いてここにいると知った。

 

 俺とユーリは一緒に部屋を出た。

 そして扉の鍵を閉め終わったとき、彼女は不意にこんな質問をしてきた。


「クロ先生」


「ん?」


「先生の夢ってなんですか?」


「えっ……」


 俺はこの質問に、なにも答えられなかった。

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