30.使い魔と触れ合う30.使い魔と触れ合う

 地獄のようなランニングを終えた次の日。

 またしても動ける服装でくるように連絡された生徒達は、若干尻込みしていた。


「今日はなにするんだろうね」


 呆れ顔で言うレノア。


「また体力作りじゃねぇの? こんどはひたすら泳げとか」


「うげぇ~ それは勘弁してほしいよ~」


 イズキの予想にげんなりするゴルド。

 彼の場合疲れるからというより泳げないからこの反応なのだ。

 ちなみに恥ずかしいから周囲には黙っているらしい。

 他にも生徒達はそれぞれに予想を口にし、徐々に憂鬱な気分に苛まれていた。

 俺はそんな彼らをちょっと離れた所から見ている。


「あぁー……昨日はやりすぎたかな」


 張り切ってグイグイ疲れさせすぎたみたいだ。

 みんなせっかくの屋外授業だっていうのに嫌そうな顔してるよ。


「嫌われたりしてないかな」


「なに弱気なこと言ってるんだい?」


「うおっ! なんだユノアか、驚かすなよ」


「そんなに驚いてないくせに大げさだな~ それにしても、君がこんなにも弱気なセリフを吐くなんて思わなかったよ。戦ってる時はあんなに勇敢で格好良いのに、生徒達の前だと情けないね」


「なっ、情けないとか。そこまで言わなくても良いだろ」


「怒らないで。ボクはただ、そんなに心配しなくても良いって言ってるんだよ」


「そうかな?」


「そうだよ。ボクが保障する」


 ユノアは自信満々にそう言った。

 特に理由を言わない辺り、根拠は無かったりするんだろう。

 彼女は案外、理由とかよりも気持ちを優先するタイプだからな。

 まぁでも、彼女にそう言われるとその気になってしまう。

 お互い単純な奴だよ。


「はい。お願いされた鍵」


「ありがとう。じゃあ行ってくるよ」


「うん。行ってらっしゃい」


 俺は彼女に手渡された鍵を握り締めて、生徒達の下へ向かった。

 生徒達は俺が来た途端、うわっ来た……みたいな顔をした。だけど俺はめげない。


「場所を移動するからついてきれくれ」


 俺が誘導したのは、学校の敷地内にある訓練場だ。

 ドーム型になっていて、天井は抜け観客席がある。


「さてここでみんなに質問だ! この間使い魔を召喚したけど、あれからちゃんと触れ合ってるか?」


 生徒達の反応はそれぞれだった。

 大半がノーという回答だったと思う。

 理由は簡単で、身体の小さい使い魔以外、学校が管理する飼育場に入れられていて、普段はあまり会う機会が少ないからだ。


「魔術師にとって使い魔は相棒だ。共に戦い助け合う存在。ただ使い魔も機械じゃない。あまり懐いていないと、いざって時に動いてくれないぞ?」


「そうは言っても先生。オレ達も昼間は授業だし、触れ合う時間なんてそんなにないぞ」


「そうだね。イズキの言う通りだ。だから今日は、存分にその時間を楽しんでくれ」


「えっ、どういう――」


 キョトンとしたイズキ。

 俺は彼に背を向け、壁の一箇所にある柵で閉ざされた場所へ向かった。

 さっきユノアから渡されたのは、この柵を空ける鍵だった。

 実はこの訓練場、使い魔のいる飼育室と繋がっているのだ。

 もうわかるだろう?

 この柵を開ければ――


「えぇ! わたし達の使い魔が出てきたよ!」


 大型の使い魔だけでなく、生徒達全員の使い魔が開いた柵の向こうから登場した。

 使い魔はそれぞれの主の下へ向かっていく。


「この時間は使い魔との交友を深める時間にする。自分の使い魔だけじゃなく、仲間の使い魔とも仲良くなっておくと今後に繋がるぞ。さぁ、存分に楽しんでくれ」


 今日の授業は訓練というより遊びに近い。

 生徒達は好きなように触れあい、好きなように遊びつくした。


「トール見てくれ! モフモフだぞぁ~」


「幸せそうですね。殿下」


「なんだ、トールも見てないで触っていいんだぞ」


「い、いえぼくは」


「いいから、ほら」


「で、では少しだけ」


 恐る恐る触れたトール。

 ホワイトウルフの毛並みは、通常のオオカミよりもふわっとして気持ちが良い。

 それを実感してうっとりしていた。


「うおー速ぇなおい!」


「イズキはしゃぎすぎ」


 イズキはサーベルタイガーに乗って駆け回っている。

 それを見て呆れた顔をするミズキも、タヴィスに跨り空を飛び、口元が緩んでいた。

 他の生徒達も空を飛び、地を駆け回り、独自の能力を披露しあったり。

 みんなこの時間は、疲れなんて気にしないではしゃいでいた。


「こういう時間も大切だよな」


 そんな彼らを眺めながら、俺は一人呟いていた。

 

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