29.ルーク=ウィリス

 本日最後の面談相手が扉を叩く。

 入室した彼はうかない表情をしていた。

 いやこの日に限った話ではない。

 彼はいつも同じ表情をしていた。

 つまらなそうで退屈そうで無気力な顔をしていた。

 俺はそんな彼が気がかりだった。

 だけどその理由を尋ねたことは一度もない。

 タイミングが合わなかったとか、興味がなかったわけじゃない。

 尋ねてはいけないような気がした。

 ただそれだけだった。


「えっと、ルーク、こうして向かい合って話すのは初めてだな」


「そうですね」


 そもそも彼と会話をしたこと事態初めてだ。

 これまで生徒達と何度か個人的に話す機会があった。

 魔術に関すること意外も、個人的で個性的な話をしてきたつもりだ。

 だけど彼とは一度もない。

 こんなことを言ってはいけないのだけれど、俺は彼が苦手だ。


「さて、じゃあ始めるぞ? ルークの将来の夢はなんだ?」


「ありません」


「なら目標としている人とかは?」


「そういう人はいません」


「じゃあ興味がある分野は? 魔術に関わらなくても良いけど」


「すいません。そういうのもありません」


「……そうか」


 かみ合わない。

 なにを考えているのかわからない。

 彼の言葉にはなにも感じない。

 表情もいつものまま、言葉を話しているというより、音を発しているようにすら感じられる。

 まるでロボットのようだ。


「だったらどうして、魔術学校に入ったんだ?」


「……」


 ルークはしばらく黙り込んだ。

 そして、急に苦しそうな顔をしてこう答えた。


「わかりません」


「どうしたんだ?」


「先生……俺、自分がよくわからないんです」


 彼は突然語り始めた。

 思いつめた表情を見て、俺は黙って聞くことにした。


「なんで魔術師になろうとしてるのか。なにがしたくて魔術師になるのか。自分がなにを考えてるのかも、時々わからなくなります」


「……」


 前言撤回しよう。

 彼はロボットなんかじゃない。

 むしろ人間らしく、誰より少年らしい。

 なぜなら彼は――


「俺は……なんのために生まれてきたんですか?」


 中二病だった。

 これは間違いない。

 自分は何のために生まれてきたのか。

 その疑問を口にすることが、中二病の第一フェーズなのだ。

 適当を言っているわけじゃないぞ?

 ちゃんと魔術で確認済みだ。


 あーやばい、ホントに聞いちゃったよ~


 魔術で思考の一部を読み取った結果、そんなことを考えていた。

 クールな顔して謎めいた発言。

 これらはすべて彼が意図的に演じているキャラ設定だったのだ。


 どうしよう。

 反応に困るな……。


 この世界に生まれる前の世界で、中二病というある種不治の病を知っていた俺は、なんとも形容しがたい気分になった。

 正直いますぐつっ込みたい。

 気を抜けば笑ってしまいそうだ。

 しかし今の俺は先生という立場にいる。

 彼を正しく導かなければならない。


「ルーク」


「はい」


「……」


 俺は五秒ほど沈黙した。

 正しく導く……この場合の正しさってなんだ?

 それを考えての沈黙だ。


「まぁ……そうだな」


 俺は徐に彼の肩に手を載せた。


「頑張れよ」


 もうこれ以上言えません。

 先生という職の難しさを改めて実感した瞬間だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます