27.イズキ=クロガネ

 ゴルドの次に面談室へ入ってきたのはイズキだ。

 彼は鬼の一族で、戦闘能力だけならクラス一かもしれない実力を秘めている。

 ミズキとは幼馴染で、喧嘩するほど仲が良いという言葉を体現したような関係だ。


「んなっ、ちょっと止めてくれよ先生まで」


 それを言うと、彼は照れくさそうに否定する。

 本気で否定しない辺りが彼らしい。

 乱暴な口調や振る舞いをしているが、根の部分は優しさで出来ていると感じる。


「ん? 先生まで?」


「そうだよ。クラスの連中までからかうんだぜ」


「嫌なのか?」


「そりゃ嫌に決まってんだろ」


「じゃあミズキのこと嫌いなの?」


「き、嫌いとかじゃねぇけど」


 目を逸らし顔を隠そうとする照れる仕草。

 なるほどこれは良くない。

 からかうのが面白いと思ってしまうから良くない。

 他の生徒達がどんな気持ちで彼を見ているのか、今日なんとなく理解した。

 

 いかんいかん、俺は先生なんだ。

 ちゃんと先生らしくしないとな。


「おほんっ、それじゃ面談を始めようかな」


「お、おう……」


「イズキの将来の夢はなに?」


「最強の男になることだ!」


「……最強? 強くなりたいってこと?」


「おう! 魔神くらいあっさり倒せるくらいにはなりてぇな」


「つまり魔神を倒したいってこと」


「いんや、別に魔神じゃなくても良いけどよ」


「じゃあなんで強くなりたいんだ?」


「そりゃーもう、格好良いから!」


「……」


 予想の斜め上を行く回答だった。

 その所為で俺の脳は一時フリーズ状態に陥った。

 そしてフリーズが解けた後、ミズキならきっと「馬鹿じゃないの」と一蹴するだろうなと思った。


「これミズキに言うと、いっつも馬鹿にされんだよなぁ」


 予想通りだった。

 というよりミズキに話していることに驚いたよ。

 やっぱり二人とも仲良いよな。


「先生も馬鹿だと思ってんのか?」


「馬鹿だとは思ってないよ。ただもっと理由は必要だと思うかな」


「理由って、格好良いからってのじゃ駄目なのか?」


「駄目じゃないぞ。そういう動機は必要だからな。だけど、お前が求めている強さは、何のための強さかって聞かれて答えられるか?」


「えっ……それはその……」


 イズキは言葉を詰まらせた。

 しかしこれは仕方が無いことだ。

 他の皆にも同じ質問をして、はたして答えられる生徒が何人いるだろうか。

 おそらく一人も答えられないと思う。

 俺やユノアだって、彼らくらいの年頃には絶対にわからなかった。

 戦う理由、強さの意味……そんなものは結果が得られないとわからない。

 強さを手に入れてやっと、答えられるものだと思う。


「今はわからなくていい。でも考えておくんだ。お前が求める強さとはなにか。どんな種類の強さなのか。それがわかった時、お前はきっと強くなってるからな」


「……よくわかんねぇ。とにかく考えろってことだな!」


「そうだ考え続けろ。強くなりたいなら」


 強さの意味は強さの先にある。

 考え続けることで、自分の求める強さにたどり着ける。

 大事なのは気づくこと、そのきっかけを得ることだ。

 俺にとって、ユノアとの出会いがそうであったように。

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