24.トール=グレンジャー

 王子ローランの次に面談室に入ってきたのは、彼の付き人をしているトールだ。

 見た目からして真面目な優等生。

 そう感じるのはメガネの所為か、それとも雰囲気がそう見えるのか。

 どっちにしろ、これから俺がする質問に、彼がどう答えるかなんて想像がつく。


「聞くまでもないと思うんだが、トールは将来どうなりたい?」


「言うまでも無く、王となった殿下を支えられる存在になりたいと思っています」


 本当に聞くまでも無かったな。

 彼の瞳からは、一切の迷いも感じられない。

 彼は本心から、ローランの力になりたいと思っているのだろう。


「それは義務感?」


「いいえ違います。ぼくにとって殿下は、ただの主ではありません」


「どういうこと?」


「それを説明するには、少し長くなってしまいますがよろしいでしょうか?」


「いいよ。聞かせてくれ」


 トールは頷いて昔話を始めた。

 彼がローランの付き人になったのは、中等部に入学した頃だった。

 それまで城で何度か顔を合わせていた二人だったが、年が同じという以外、特に接点は無かったという。


「殿下は最初から、ぼくにやさしく接してくださいました。ですが正直に言うと、はじめは殿下に嫉妬していたんです。自分とは違い、何でも持っている殿下が羨ましかったんです」


 表面上仲良く振舞っていたトール。

 しかし中等部へ入学した時、彼を不幸が襲った。

 端的にいうといじめを受けたのだ。

 中等部には様々な生徒がいて、同じようにローランへ嫉妬心を向ける者もいた。

 子供だから仕方が無いと言えばそうなのだが、彼らはローランを快く思っていなかった。

 それでも彼は王子だ。

 下手に手を出すわけにはいかない。だから彼らは、お付きであるトールを影で苛めていた。


「初めは耐えていました。ですが次第にエスカレートして、我慢できなくなって……。ある日殿下をお連れしたんです」


「お連れしたって、いじめの現場にか?」


「はい。お恥ずかしい話ですが、殿下への意趣返しのつもりでした」


 お前の所為で自分は不幸な目にあっている。

 トールはローランにそう伝えたかった。

 そして、いじめの実態を知ったローランは激しく怒った。

 これは予想していたトールだったが、一つだけ予想外の発言を耳にした。


「トールは僕の友人だ! 侮辱することは許さない!」


 ローランはトールを友人と言ったのだ。

 従者でも付き人でもなく、友達として怒りを言い放った。

 それにトールは衝撃を受け、激しく心を打たれた。


「とても驚きました。殿下がぼくを友人だと思ってくれていたなんて、今まで思っていませんでしたから。そして、同時にすごく情けない気分になりました。殿下はこんなぼくを友人だと言ってくださったのに、ぼくは殿下を……」


 胸が締め付けられるように痛かった。

 とても耐えられる痛みではなかった。

 だから彼は、正直な気持ちをローランに話した。

 自分がこれまでどう思ってきたのか、そして今、どう感じているのかを。

 罰せられる覚悟もしていたらしい。

 するとローランは――


「そうか。だったら今日から、僕達は友人になろう」


 済んだ笑顔でそう言った。

 トールの眼からは、雨のように涙があふれ出た。


「その時に思ったんです。この方を支えられるような人間になろうって」


「そっか。なら頑張らないとな」


「はい!」


 彼の言葉から、彼の瞳から……強い覚悟と信念を感じた。

 これならもう何も言う必要は無い。

 なぜなら彼は、誰になんと言われようと折れないからだ。

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