20.足りないもの

 生徒達の作戦は失敗した。

 その後は本当にグズグズで、作戦なんて、連携なんて無かったかのようにめちゃくちゃだった。

 走れる者はがむしゃらに走り続け、疲労困憊の者は地面に腰をおろしていた。

 もはや言うまでも無いが、彼らの完敗に終わったのだ。


「おつかれさん。みんなどうだった? って聞くまでも無いよな」


 言うまでも無く、というより言える状況でもなかった。

 彼らは等しく呼吸を乱し、疲労で今にも倒れてしまいそうだった。


「はぁ……はぁ……なんで先生達はケロッとしてんだよ」


 イズキが汗を拭いながら質問した。

 そしてその答えこそ、俺が確認したかったことで、伝えたかったことでもあった。


「お前達より体力があるからに決まってるだろ」


 そう、体力。または持久力というやつだ。

 俺が鬼ごっこで確認したかったのか、彼らの体力が現状どの程度なのか。

 そして実感して欲しかった。

 自分達の体力不足、運動効率の悪さというものを。


「魔術師にとって、体力の有無は生死を分けるほど重要だぞ」


「いや、オイラ達だって、魔術を使っていいならもっと」


「もっと動けたか? 残念ながらそれは無い。なぜなら、お前達が魔術を使うなら、俺達も同じように魔術を使っていたからだ。条件は同じだった。そこを変えても結果は同じだ」


 生徒達の呼吸が整ってきた。

 脳に酸素が十分に回り出し、クリアな状態で思考を巡らせる。


「そういえば先生……一度も止まってなかった」


「おっ、よく気付いたな。ミズキの言う通り、俺達は一度も止まってないぞ。付け加えるなら、崖に追い込まれた時を除いて、走るペースも変えてない」


 あの瞬間は結構危なかったかな。


「どんな高度な魔術を憶えても、使うのは自分の身体だ。たとえ無限の魔力を持っていても、先に体力が尽きれば戦えない。今日はそれを知ってほしかった」


「体力か……結構自信あったんだけどな」


「イズキは鬼族だからな。普通の人間よりも身体能力は高いんだろう。だけど、体力っていうのは身体能力の強さだけでは決まらない。呼吸の方法、筋肉の使い方、最適な動き……様々な要素が揃って、初めて体力ってのは身に付くんだ」


「なんか難しいな……」


「そこはちゃんと教えるよ。せめて皆には、今くらいの運動を一日中続けられるくらいにはなってほしいかな」


「「えぇ!!」」


「ちなみに……クロ先生はどれくらい保つの?」


 ネロが恐る恐る聞いてきた。

 俺はう~んと考えてから、これまでの経緯を振り返った。


「今日くらいの運動なら、一週間は大丈夫かな。もちろん食料とかはありだけど」


「……」


 生徒達はぽけーっと口をあけて驚いていた。

 俺にこれだけの体力が身についたのは、長年続けた旅の影響だろう。

 あの頃は、いつどこで戦いは始るかわからなくて、常に気を張っていないといけなかったからな。


「というわけで、実技授業が始ったら体力づくりも平行してやっていくぞ」


「こんなの続けたら、座学なんて寝ちまうよ……」


「それなら立ったまま授業を受けてもらおうかな」


 イズキから「うげっ」という嫌そうな声が聞えた。

 こうして初の屋外授業は終了した。

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