19.作戦実行

 逃走を続ける俺とユノアは、生徒達の追跡が止まったことに気付いた。


「クロト」


「わかってる」


 さて、どう来るかな?


 

 その頃一箇所に集まった生徒達は、俺達を捕まえる作戦を考えていた。


「バラバラに追っかけても無理だぜ」


「うん。みんなで協力しよう」


 イズキの意見に賛同するレノア。

 他の生徒達も頷いて賛同を示している。

 彼らの額からは、滴るような汗が流れている。

 生物である以上、常に全力を出し続けることは不可能だ。

 徐々に疲労は溜まり、筋肉は鉛のように重くなる。

 この時すでに、俺がなにを伝えようとしていたのかを実感し始めていた。


「最後に先生たちを見たのは誰?」


「たぶんオイラだ! あっちの方にいた!」


 ゴルドが指差した方角にレノアが眼を向けた。

 現在俺達が逃走しているのは、ドーム内の西側である。そして彼らが作戦を考えている地点は、丁度中心部に近い場所だった。


「確かその方向って、そりたった崖がありましたよね」


 トールがそう言った。

 彼の情報をもとにして、ローランが意見を口にする。


「ならば、僕達全員で先生をそこへ誘導するのはどうだろう? こちらは十二人いるわけだし、崖だって横に広がっている。多少ワイドに守っても誘導は効くはずだ」


「間を抜けられたらどうする?」


「その心配はないと思うよ、ルーク。先生達は僕らを見つけると、必ず反対側に逃げようとするんだ」


「……そうか」


 こうして作戦はローランの案に決定した。

 全員で弧を描くように陣取り、俺達を崖に誘導する作戦だ。

 そして作戦はすぐに実行へ移された。


「見つけたぞ!」


「ゴルドか」


「やっと動き出したね」


 俺達は彼らの狙い通り、崖側へ背を向けて走り抜けた。

 三十分以上走り回っているし、崖の存在は俺達も把握している。

 だから当然、彼らの狙いも理解できていた。

 それでも、あえて裏をかくつもりはない。そんなことをしなくても、逃げ切れる自信があったからだ。


「見えてきたな」


 先に俺の視界へ崖が入ってくる。

 追いかける彼らも、目標地点を視認して勝機を悟った。


「よし、これなら――」

 

 先生達のスピードが落ちてきた……。

 ローランが気付き、初めて手の届きそうな距離まで来たレノアが勝利を予感する。


「終わりだよ! 先生!」


「それはどうかな」


 目の前に崖、後ろからは十二人の生徒達。

 崖は高く、魔術無しで昇るのは難しい。

 しかし――


「ユノア!」


「うん」


 俺はユノアを抱かかえた。

 その状態で崖に飛び掛り、崖を蹴って宙返りをした。


「なっ……」


 レノアの頭上を華麗に飛び去り、着地と同時にユノアを下ろして逃走を再開した。


「嘘でしょ!」


 唖然とするレノア。

 一連の行動を見てローランは気付いた。

 崖の手前でスピードを緩めたのは、今の跳躍で自分達を躱すためだと。

 そしておそらく、俺達がわざと誘導にのっていたということも。

 

 彼らの作戦は、こうして失敗に終わった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます