11.初授業

 キーンコーンカーンコーン。


 始業のチャイムが鳴った。

 それとほぼ同時に、教室の扉がガラガラと開けられる。


「みんなおはよう。ちゃんと遅刻せずに来てるな。さっそくホームルームを始めるぞ」


 教室には十二人の生徒が座っている。

 順番に名前を呼んで出席を確認した後、連絡事項を話した。


「ホームルームは以上だ。十五分の休憩後、授業を始めるから準備しておくように」


 そう言い残して、俺は教室を出た。

 俺がいなくなった教室では、初めての授業に期待する声があがっていた。


「ねぇねぇレノア! 遂に授業だよ授業!」


「ネロはしゃぎすぎ」


「えぇ~ 楽しみじゃないの?」


「楽しみだけど、最初ってたぶん基礎とかでしょ? 中等部でやった内容の復習とかなら、わたし寝ちゃうかも」


 そんなこんなで休憩が終わった。

 授業開始のチャイムが鳴り、俺が教室に戻ってくる。


「さて、さっそく授業を始めよう。今日の議題は――」


 俺は黒板にチョークでこう書いた。


 魔術とはなにか?


「やっぱり基礎かぁ……」


 それを見たレノアからやる気のない声が聞えてきた。

 気付いた俺は、彼女に質問を投げかけた。


「魔術とはなにか? レノア、お前はわかるか?」


「えっ、あ、はい! 魔術とは、魔力を用いて人為的に現象を起こすを術のことです」


「ありがとう。良い回答だね。じゃあもう一つ質問だ。魔術に必要な要素はなにかな?」


「魔力と術式と、それから詠唱です」


「正解だ。でも、詠唱だけはどっちでもいいかな」


「えっ、でも詠唱は必要ですよね?」


「必要だけど、必要じゃない場合もある。そもそも詠唱ってなにかわかる?」


「魔術を使うための言葉……だと思います」


 最後の回答だけ、レノアは自信なさげに答えた。


「その回答では不十分だね。詠唱とは、魔術を使用するためのトリガー……という認識が強いが、それだけじゃない。正しくは――」


 黒板に文字を書く。


 世界に訴えかける言葉

 自身を変質させるための自己暗示


「こういったものを詠唱と呼んでいる」


「世界に……」


「そもそも魔術とは、術式を介して世界に干渉する方法のことを指している。この時に大切なのはイメージだ。それを世界に伝えるために、術式だけじゃなく言葉でも訴えかける必要がある。だから逆に、術式だけで伝えきれるなら、詠唱なんていらないんだよ」


 まぁ実際、詠唱無しで魔術を発動させるのは難しい。

 術式だけでイメージを伝えるには、その術式を完璧に理解していないといけない。

 だけど術式は、俺達が普段用いている言語じゃないし、とても複雑でわかりにくい。だから詠唱という補足が必要になるんだ。


「特に自己強化系の魔術は、訴えかける対象が自分自身だからな。イメージがしっかりしてれば、自己暗示の言葉なんてなくても術は発動する。今後は実技の授業もあるし、そこで色々試してみようか」


「は、はい!」


「ごめんなレノア、お前ばっかりに質問して。だけど基礎っていうのは本当に大事なんだ。わかっているようでおぼろげじゃ、魔術師とは呼べないからね」


 その後も基礎的な内容を説明した。

 はじめはやる気の無かったレノアも、今は集中して聞いている。


 キーンコーンカーンコーン。


「おっと、もうこんな時間か。じゃあこの授業はここまでだ。質問があれば、また後で聞くよ」


 こうして、俺の教師として最初の授業が終わった。

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