6.再会とその先へ

 土の中から出た時、俺は裸の状態だった。だから魔法で服を作って着替えた。

 今後どうするかを考えたけど、なかなか決められずにいた。


「とりあえずここを出るか」


 いつまでも墓地にいるわけにはいかない。

 人通りが少ないとは言え、王国の人間も時折訪れる場所だ。

 見つかる前に退散しよう。


 それから山を降り、なんとなく王国内をウロウロした。

 フードとマントで身を隠し、俺がいなくなった街の様子を見て回った。

 結論から言うと、街はとても穏やかだった。

 俺が死んだというニュースは世界中に広まっていて、首都ルネスタでも嘆く声が上がっていた。

 しかしそれ以上に、魔神の脅威がさったことの喜びが勝っていて、街はむしろ活気が戻っていた。


 最初は生きていることを明かし、裏切った王国へ復讐してやろうかとも思った。

 だけど、穏やかさを取り戻した人々の様子を見て――


「……このままでいいか」 


 そう感じた。

 俺が生きているとわかれば、再び混乱をまねくかもしれない。

 形はどうあれ、今世界は安寧を取り戻している。

 それを壊してしまうのは、良くないと思った。


 まぁそれに、この国に思い入れがあるわけじゃない。

 生まれ育った故郷でもなければ、帰りを待つ誰かがいるわけでもない。

 俺は複雑な感情に苛まれながら、ルグドニア王国を後にした。


 そしてまた、当ての無い旅が始まる。

 魔神を討伐するという目的は果された。その果てに裏切られ、独りぼっちになった虚しさを感じながら、俺は歩き続けた。

 行く当ては無い。

 帰る場所も無い。

 たった一人の孤独の旅……一緒に旅した彼女のことを思い出した。


「やっと見つけた」


 ふと聞き覚えのある声がした。

 俺が歩いていたのは、もう使われなくなった古い街道。

 こんな道は誰も通らないだろうと思っていたから、誰かがいたことに驚いた。

 それ以上に驚いたのは――


「ユノア?」


 声の主が彼女だったことだ。


「どうしてここに……国へ戻ったんじゃ」


「うん。だけど全部放ってきちゃった」


「な、なにやってんだよ! 国を取り戻すチャンスだったんだろ!?」


「はははっ、ホントなにやってるんだろうね。自分でも驚いてるよ」


 彼女は気の抜けた笑顔を見せた。

 俺にはどうして笑顔でいられるのか理解できなくて、複雑な感情が入り混じった表情になった。


「国に戻ってすぐ、君が死んだって話を聞いたんだ。そしたら居ても立ってもいられなくなって、気付いたら国を飛び出してたよ」


「なんでそんな……お前にとって故郷を取り戻すことは、なにより大切なことだったはずだろ」


「確かに大切だったよ。でもね? ずっと一緒に旅をして、お互いのことを知って……。いつの間にか、国より君の方が大切になってたみたいだ」


 潤んだ瞳が見えた。

 頬を赤らめ満面の笑みを浮かべる彼女に、俺の心は激しく動かされた。


「っ……」


 気付けば彼女を抱きしめていた。


「ユノア……君が好きだ。ずっと一緒にいてほしい」


「うん……ボクも君が好きだよ。だから、ずっと一緒にいよう」


 この時、初めて彼女への好意を理解した。

 救った者達に裏切られ、孤独を感じていた俺に、彼女は温もりを届けてくれた。

 ずっと一緒に旅をして、互いに理解を深めていって……。

 そうしていくうちに、俺達は互いを特別に感じるようになっていたんだ。

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