5.裏切られて土の中

 ルグドニア王国へ戻った俺は、王城で盛大にもてなされた。

 魔神を討伐した英雄と賞賛され、王城でパーティーが開かれた。

 この翌日には、国をあげての催しも準備されているらしい。

 今日のパーティーは前夜祭というべきだろう。

 集まっているのも、この国の重鎮ばかりだった。

 

 今思い返すと、このときに気付くべきだったのだろう。


「本当によくやってくれた」


「君は英雄だよ!」


 国王は満面の笑みで感謝を口にした。

 重鎮達も好意的に接してくる。

 この時の俺は、英雄という言葉に酔いしれ、向けられる感謝に心が舞い上がっていた。

 だから気づくことができなかった。


「本当にありがとう――だが、もう用済みだ」


 彼らの向ける笑顔も、口にした感謝も、全て偽りだったということに……。


 俺の飲み物に毒が混ぜ込んであった。

 執拗に勧められて飲み続けた結果、遂に致死量に到達してしまったのだ。


「ど……どうして」


 わけもわからず悶え苦しむ俺に、国王は真顔でこう告げた。


「感謝しているのは本当だよ。しかし、君の存在は今後の我々にとって不利益になる。これ以上、生きていられては困るんだ」


 世界を救った英雄として名を馳せ、この国で国王以上の権力者になりえる可能性をもっていた。

 それを危惧した国王と重鎮達は、俺を暗殺する算段を整えていた。

 俺が魔神討伐に旅立った日、すでに暗殺計画は進められていたらしい。

 俺はまんまとそれに乗せられ、毒を盛られて意識を失った。


 国民や世界にはこう伝えられた。

 魔神を討伐しなんとか帰還したが、その時にはもう重傷を負っており瀕死の状態だった。

 我々も手を尽くしたが、尽力虚しく命をおとしてしまった。

 もう一人の英雄は、魔神討伐の際に命をおとした。


 国をあげての祝勝パーティーは、大葬儀に早代わりした。

 その前日に、俺の身体は罪人を埋葬する墓地に埋められた。

 誰もが俺は死んだと思っていた。

 しかし実際は死んでおらず、元々毒には耐性があったため、一時的に意識を失っていただけだったのだ。


 そうして現在に至る。



「はぁ……」


 まさか毒を盛られるなんて思わなかった。

 完全に予想外、というより忘れてしまっていた。

 権力に溺れた人間は、時としてとんでもないことをやらかす。

 旅を続ける中で学んだはずなのに、魔神討伐の達成感と、英雄扱いされる優越感の所為で考えられなくなっていた。

 それにしても――


「裏切られるって……案外堪えるものだな」


 特別人間が好きだったわけじゃない。

 半分は悪魔だし、母親も迫害されていた影響で、むしろあまり好きではなかった。

 彼らに強い信頼を抱いていたわけでもないし、仲間意識なんてわいてもいない。

 それでも彼らに裏切られ、悪意を向けられることを、悲しいと思ってしまった。


「さて、これからどうするか……」


 空に輝く星々を眺めながら呟いた。

 

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